富の蜜柑(12/17)
口に含んだ瞬間、しまったと思ったが遅かった。
瞬く間に姫と隼士の顔と言わず、全身が赤一色に染まってしまったのだ。
富の蜜柑。
外側の皮も内側の皮も白い部分もつぶつぶ果肉も。
果物の種なし蜜柑と外観も触感も匂いも全く同じなのだが。
違いがたった一つ。
酒成分が多分に含まれている事であった。
素人では見分けがつかない事から、果物の蜜柑と富の蜜柑を見分ける専門の職人が居る程であり、子どもは野生の蜜柑は決して口にするなと言い含められていた。
油断をした。
朦朧とする頭の中、隼士は眉根を寄せた。僅かに。
これまでの経験上、アドベントカレンダーの中で富の蜜柑を食べた事がなかったので、今年も大丈夫だと読んでいたのだ。
「ひめらま。とみのみかんをたべてしまいらした」
「そ。そう、みらいね」
「は。はは。あらまがからまがぐるぐるしますろ」
「わらし、たち。おさけ、あんまり、つよくらいものね」
「ひめ、さま。おまち、くらさい。いま、よいろめくすりのかみあめを、おわらし、します」
「さすが、よういがいいろね。あ、はやと。わらし、こっちよ」
「ひめさら。うごか、ないでください」
「うごいて、らい。たぶん。はやと、ちゃんろ、なめた?」
「なめました、と、おもいますら、むみむしゅう、れ、すぐにとけるろで、じしんが、ございません」
「もう、ちょっろ、ねよう。ねらら、なおる」
「うう。ふがいらし。ひめさま、もうしわれございませぬ」
「しょうがないれしょ」
「ひめさら」
「ん?」
「ひーめーさーらー」
「んー。らーにー?」
「わらくしはーひめさらがーここれーくったくらくーわらってーいきているのをみてー、こころらー、すごくーうごいれいますー」
「あ、はは。にゃにいってるかわかんにゃい」
「ここれーいきていくことらーひめさまにとってーいいのではないかーとおもっれしまいらしたー」
「あっはっはっは」
「こ、こんらかたちれもー、ずっとーずうううっとーわたくしとーへびとーいきていけるーかーもしれなーくてー、うれしいのれーす」
「あっはっはっはっは」
「れもー。れもー。わたくしはーれもー」
「あっはっははっはっは」
「わたくしはーひめさらとークリスマスをーすごしらいのですー」
「んー」
「ひめさらからのーおくりものらーやまほろたくさんあっらっれーひめらららーいられればーさ、んぐー」
「んー」
最後まで言葉を紡ぐ前に眠りに就いてしまった隼士の手を手探りして握った姫は、少しだけ涙を流した。
隼士と同じように。
(2022.12.17)
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