初雪(12/14)




 どうしてそなたは拒むのか。

 ひとめだけ見て帰った男の疑問に対する応えはない。

 眠る今も然る事ながら、起きている時でさえも。


「共に望んで結婚したのではないか?」











「姫様。雪です」

「うん」

「豪雪です」

「うん」

「積もっております」

「うん」

「かまくらを作りましょうぞ。いえ、それとも、雪合戦になさいますか?」

「ううん。私はここに居るから、あったかいかまくらができたら呼んでくれる?」

「承知しました」


 木の根元に開いている穴の中で、姫はちょこんと膝を抱えて、はしゃいでいる隼士を微笑ましく見ていたかったが、そうはできなかった。

 不思議とここは雪の影響が全くなく温かいのだが、深々と厳かに降り注ぎ、時にびゅうびゅうと吹き荒れる雪を見ているだけで身震いがするので、そんな中で動き回る隼士を見つめる事ができなかったのだ。


 姫は雪が好きではなかった。

 寒いし、寒いし、寒いし、歩きにくいし、何より。

 連れ去りそうで怖かったのだ。

 手も届かない遠くへと。どこかへと。

 ここはそんな事は起こりようがないとわかっていても、不安は消えない。

 だが、隼士は雪が大好きだと知っているので、行かないで傍に居てとは言えなかった。


(それにそもそも)


「姫様。かまくらができましたぞ」

「うん」


 目を爛々と輝かせて頬を赤くさせた顔を見るのは好きだからいいのだ。

 相も変わらず無表情だが。

 姫はにっこり笑って、隼士に連れて行ってとお願いした。











(2022.12.14)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る