岩塩(12/13)
チョコ、抹茶、トマト、ブルーベリー、ココア、キャラメル、珈琲、ココア、黒豆、苺、ほうじ茶色など彩がふくよかな岩塩は、ともすればマーブルパウンドケーキのようで、ついつい食べてしまいそうになるが、見た目に惑わされてはいけない。
岩塩なのだ。
かぶりつこうものなら、口の中と言わず、身体中の水分が刹那として蒸発してしまうくらいにからからになってしまうのは必須であった。
ので。
隼士は姫をさり気なく注視していたのだが、幸いそんな素振りは見せず、かがんだまま黙々と岩塩を拾い続けていた。
隼士をちらちらと見ながら。
「姫様。わたくしに申したい事がございますのですか?」
「え?うん。えー。と」
姫はかがんだまま身体を動かして隼士と向かい合った。
「あのね」
「はい」
「あの。私は」
ごきゅり。唾を飲む音が隼士にまで届いた。
「私はね。隼士が好きよ」
「はい。存じておりますぞ」
「ええ。知っていると思うけど。その好きは、結婚したいっていう好きじゃないからね」
「はい。存じておりますぞ」
「ええ。そうね。知っているのは知っていたけど、その。ほら。昨日私変な事言った。言った、かしら?どうだったかな?ちょっと覚えてないけど。あの。昨日は十二月十二日でダズンローズデイって言って、十二本の薔薇を恋人とか奥様にあげたりする日でね。まあ、昨日は十二本じゃなかったけど。でも、一本の薔薇には意味があってね。「一目惚れ」とか「あなたしか居ない」とか。だから。その私もしかして隼士が私に愛の告白をしているんじゃないかって。隼士は無言だったけど。薔薇を贈る事で伝えてるのかなーって勘違いしちゃって。やーねもうここでの私の頭の中ってすんごくお花畑になっているみたいで。だからもし私が変な事を言ったとしても変な事を言っちゃう姫様だなーって聞き流してほしいの」
「はい。承知しました」
「………うん。じゃあ、そういう事でよろしく」
「はい」
何を慌てふためいているのか。
姫は動揺皆無いつもの無表情涼しさ満点の隼士を見て、隼士に気づかれないように溜息を出したのであった。
(2022.12.13)
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