空綿(12/7)
「わあー。すごいすごい」
姫は何度も何度も小さく跳ね続けた。
空の樹から自然と離れた綿が悠々と飛んでいる青空を見ながら。
空の樹。
その名の通り空に生えて空の色に染まる樹で、その樹に実り離れた白い空綿は浮くクッションの材料として用いられていた。
「ほら。隼士。みてみて。浮いてる」
「姫様は空の綿がなくても浮けるではないですか?」
集めた空綿の上に乗って座り空に浮いていた姫は、ちっちっちっと人差し指を左右に揺らした。
「私はただ人より高く跳ねられて、滞空時間が長いだけで飛べはしないわよ」
「わたくしたちは姫様は飛べると認識していました」
「へえー。姫だから?」
「貴方だからですよ」
「………へえー」
「そのまま飛んで行ってとんずらするのではとよく気を揉んでもおりました」
「………まあ。考えない事もないでもなかったけど」
「今現在実行中でございますしね」
「………否定はできないわね」
「必要でしたのでしょう。姫様にとって。ですから待っているのですよ」
ぷかぷかぷかぷか。
ふかふかふかふか。
その場で浮き続ける空綿に乗って座って、隼士と目線の高さを同じにしていた姫はやおら視線を外しては飛び降りて、地に確り立って、隼士を見上げて、乗ってみないと笑うと、いつもと変わらずの無表情な顔で、わたくしは純粋無垢ではないので乗れないと推測しますがと言ったので、つい噴き出してしまった。
(2022.12.7)
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