始まりの鐘(12/6)




「………」

「………」

「………」

「………」

「………」

「………」


 横並びに立っている姫と隼士は今、話さないように口を硬く結びながら目配せをした。


 銀色に照り輝く凸凹の大岩の前で。

 始まりの鐘を手に入れる為に。

 同じ動きで寸分違わず合わせて舞い踊らなければならないのだが。

 無言で。


 時に早く。

 時に遅く。

 時に振付を間違え。

 時にぶつかり合い。

 なかなか一致しなかったのだ。


「………」

「………」


 素早く瞼を開閉させて、休憩しませんかと隼士は目配せした。

 拳を作り天高く腕を掲げては曲げた状態で胸の位置辺りで止めてを素早く繰り返し、まだまだ続けると姫は手振りをした。

 やわくゆるく首を横に振って、無理はいけませんと隼士は身振りをした。

 力強くゆっくりと首を縦に振って、無理はしていないと姫は身振りをした。


「………」

「………」


 姫は腰に両手を当てて。

 隼士は後ろで両手を組んで。

 睨み合っているとも言えるような見つめ合いが続いて、十分。


「………」

「………」


 姫は片頬だけを膨らませて、あと一回だけと身振りをした。

 守護者は片頬に手を当てて、あと一回だけですよと身振りをした。

 二人は少しだけ距離を開けて、横並びに立って、お互いの顔を見合わせて、目配せをして、高く高く飛んだ。

 五分間続く舞い踊りの開始である。











(2022.12.6)


 

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