焔の一枚羽(12/4)
「昨日は金柑か」
床も壁も天井も扉ですら。
光を吸収する黒くざらついた岩で形成されているこの部屋の中央で、蛇は隼士を見下ろした。
蛇が描いた魔法陣の上で、姫が作ったアドベントカレンダーを掛布団のように顔以外を覆い、本当に呼吸しているのかと少し心配になるくらいに静かに眠り続けている。
『甘くて苦くてわたくしは好みません』
金柑も金柑のシロップ漬けも大好きだった姫が勧めるより先に、そう言って断っていたが、姫の食べてみて発言が止む事はなかった。
たった一度、幼い頃に食べた時の感想だけで、食べる事を諦めないでほしいと。
姫の考えに一旦は同意したがしかし、姫の食べてみて発言はあまりにしつこかったので、好き嫌いはあるのだからと蛇もまた諫めると頻度を減らしていって、年を重ねるにつれて言わない年も出て来た。
ここでは。
アドベントカレンダーの中ではどうなのか。
『何の加工もしていない金柑ならば、いえ。収穫したてだからでしょうか。酸っぱくて、仄かに甘くて、苦みが皆無で、口の中を襲う違和感が極小ですので、食べられない事はないですね』
どうして食べる気になったのかは、わからないけれど。
瞳を少しだけ輝かせた隼士を姫に見せたかったと蛇は残念に思った。
とても。
「今日は焔の一枚羽の収穫か。じっとしていられるのかな。姫様も隼士も」
「ばかばかばか隼士!焔鳥の瞳を三十分見続けないと、羽はもらえないのに!」
「勿論、わたくしにも落ち度はありましたが、姫様もわたくしと同時に目を逸らしましたですよね?よって、わたくしだけの落ち度ではないです」
「だってだって!ずっと瞳を見続けたら、ちょっと、足元がふらついて、気持ち悪くなっちゃったんだもん!」
「わたくしも同じ感想を抱きました。ですが。焔の一枚羽はクリスマスの灯りには不可欠。姫様。今度こそ頑張りましょうぞ」
「………隼士だけ頑張るって選択肢も無きにしも非ず。はい。私も頑張りますよ」
「はい」
(2022.12.4)
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