西洋柊(12/2)
「姫様」
「んー」
「蛇が泣いておりますよ」
「んー」
「長い間姫様が眠りに就いているのは、僕が姫を嚙んじゃったせいだと泣いておりますよ」
「嘘だー」
「嘘ではありません」
「だったら、蛇のせいじゃないから泣かないでって伝えておいてよ」
「姫様」
「もー。
「赤い実に拘らなくてもいいのではないのですか?葉は同じく縁が尖っていますのに」
「そうだけど。やだ。諦めたくない」
地面に顔をつける勢いで屈み赤い実がなっている西洋柊を探している姫に倣って、守護者である隼士は膝を地面につけて頭を下げ、注意深く縁が尖っている葉が群生する周囲を見渡したが、赤い実も、そして漁火花も見つからなかった。
これまでと同様に。
隼士は立ち上がって膝と手についた土を軽く払い、あちらに行きましょうと姫に手を差し出した。
姫は手と膝を地面につけたまま見上げて隼士を、隼士の炎のように赤い瞳とゆらゆら静かに揺れるポニーテールを見つめたのち、口を尖らせて立ち上がり手を握った。
土は払わずに。
隼士は姫が並び立つと、ゆっくりと歩き出した。
「私が見つけたかったのに」
「まだ見つけていませんし、わたくしが先に見つけたとしても問題はありませんですよね。姫様は一緒に探せと言いましたし」
「そうだけど。昨日の松ぼっくりだって隼士が見つけたし」
「いいではないですか」
「いいですけど。いいですけどー」
姫の膨らんだ頬を見て林檎を連想した隼士は、林檎を集めるのはまだ先だったなと思いながら、早く見つけて喜んでもらいたいのですよと言えば、さらに頬が膨らんだのであった。
(2022.12.2)
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