第6話 R-209

「ほう。なら取りに入れ。それぐらいで殺すのも気が引ける。」


 一飛はホッと胸をなで下ろした。しかし飛貴が言葉を返した。


「で、でも、SKI704…乗ってきた宇宙船が多分壊れて…」


 一飛が顔をこわばらせた。


「それは大変じゃのう。ま、とりあえず出てこい。話はそれからじゃ。」


 アドルフがさっきとは人が違うように優しくなった。


 二人がSKI704から這い出る。そして―おそらく宇宙船技師であろう―男女三名ほどをSKI704に残し、家へと向かった。




「あの…アドルフ…?って人めっちゃ優しくなりましたよね?」


 飛貴が翻訳機を貸してくれた男にアドルフに聞こえないように小声で聞いた。


「アドルフだっていつもは怖くないよ。」


 仮面の下から男が言葉を続けようとした時、一飛が四時間ほどぶりのしっかりした重力の感覚を掴めず、転んだ。


「大丈夫?あれ、さっきこの星にいたんだよね…?」


「兄ちゃんは重力に対する環境適応能力が低いんですよ。人間関係の適応能力は高いけど。」


 一飛が飛貴を睨んだ。飛貴はそれに気づかないふりをして、続けた。


「あ、あの、宇宙船が壊れてたらどうしたらいいんですか…?」


「ん〜、ここで一泊とかしないといけないかもね。」


 男が一飛の手を引っ張りながら答えた。


「ここで一泊するのは怖ぇよ」


「兄ちゃん、昨日はここで泊まってたんだよ?」


「う、うるせぇ。昨日は昨日、今日は今日だよ。」


 男が一飛の言葉に笑う。


「そうだ、君たち、名前は?」


「え?」


「だって、ここで泊まったり過ごすんだったら必要でしょ?」


 男の純粋で真っ直ぐな視線が仮面の穴を通って、飛貴の目を見つめる。


「そ、そうか。えっと、僕は飛貴です。暮星飛貴。」


「なるほど、飛貴くんね。お兄ちゃんの方は?」


「…一飛。」


「一飛くん…おっけい! 僕はルシア。よろしく!」


「ルシアさん、よろしくお願いします!」


「ルシアだけでいいよ、後、敬語もいいよ。」


「え、じゃあ、よろしく!」


「よし、とりあえず部屋に入って宇宙船の状況連絡を待とう。」


 一行は家に入り、それぞれの持ち場や荷物のところに戻った。ルシアは荷物の所に戻り、身につけていたものを外していった。と言っても、仮面と上着と背中に背負った鞄だけだが。


 ルシアが仮面を外すと、そこから美少年が顔を出した。さっきから男というのは語弊があったようだ。どうだろう、一飛より一、二歳上だろうか。白髪で、蒼い目。まるで異世界から来たかのような顔立ちに、飛貴は気を取られた。


 すると後ろからフフッと笑い声が聞こえた。飛貴が振り向くとそこには素直な顔立ちの女性が立っていた。


「ルシアくんね〜、いいよね。」


「えっと…ど、どなたですか…?」


「あ、ごめんごめん、私リタ。君は?」


「飛貴…です。」


「見慣れない顔だね〜、もしかして、さっきの宇宙船の人?」


「あ、はい。」


 どんどん来るリタの質問に戸惑っていた飛貴は、ルシアの方を向いた。すると着替え終わっていたルシアが二人のところに歩いてきた。


「リタ、飛貴が困ってるじゃん。質問攻めはそこまでにして、飛貴、来て。」


「おっけい…あ、じゃ、リタ…さん?また後で。」


「じゃ、ばいび」



 ルシアと飛貴はモニターやレーダー、無線機などが無造作に置かれた部屋に入った。


「もうすぐで技師の三人が到着するはずだから、ここで待ってて。」


 そう言ってルシアは部屋を出ていった。ルシアと入れ替わりに、一飛がアドルフに連れられて入ってきた。


「飛貴、どうだった?」


「まだ聞いてないよ。今連れてこられただけ。」


「なるほど。」


「兄ちゃん、帰れるかな?」


「帰れるよ。たぶん。」


 二人の間と部屋中に、沈黙が立ち込める。実のところ、一飛も飛貴も、帰れるか不安だった。



 しばらくすると、ルシアが技師たちの先頭に立って部屋に入ってきた。


「飛貴、あの宇宙船が完全に治るまで1~2日かかるって。」


 また部屋中に沈黙が立ち込める。その沈黙の中、一飛が口を開く。


「じゃあ、ここで泊まるってことに…?」


 周りを取り巻く大人たちがうつむく。それを見て、一飛はため息をついて壁に手をついた。


 このどんよりした空気をどうしたものか。部屋にいた全員が考えた。


 十数秒の沈黙の後、この場を和ませようと、ルシアが一飛と飛貴に声をかけた。


「一飛、飛貴、泊まれる部屋を探しに行こう。」


 呼ばれた二人は何も喋らず、ただただ言われるがままに、ルシアに続いて部屋を出た。


 部屋に残された大人たちは、それぞれの持ち場にゆっくりと戻った。三人の技師とアドルフは、いち早く修理するにはどうすればいいかを話し合った。



 ルシアは、廊下を突っ切り、寝る部屋—を突っ切り、外に出た。部屋に行かないルシアに話したのは、飛貴だった。


「ねえルシア、どこに行くの?」


「…ここら辺でいいか。」


「何が…?」


「一飛、飛貴、ここはあくまでもCoAの拠点だからな、何かあれば、一瞬で殺されてしまう。宇宙警察なんかがきても二人は殺されちゃうし、CoAの過激派が来ても殺される。二人はアドルフとか、他のみんなに匿ってもらってる立場っていうのを理解しといて。」


 ルシアが急に早口で話しだしたからか、飛貴はすぐに返すことができなかった。


 ここは宇宙で危険視されているCoAの拠点だ。いつ何が起きて、いつ殺されるかわからない。


 その事実が、二人の背筋を凍らせた。



作者のコメント

 やばいよ、もう無理かもしれないです。頑張るけど。

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