第3話 K-821

 雄大と彩野は早口の英語で科学者たちにひとまず他の惑星へと移住することを伝え、移動の準備を始めた。


 荷物をまとめ、暮星家は家の外へ飛び出した。すると。0.15マイルほど先にさっき見た宇宙船が一艘止まっているのが見えた。その手前には、さっき覗いていた男とその仲間がいた。

 どうやら男は英語が喋れないようなので雄大は持ち前の翻訳スキルを使って会話をした。


「Verzeihung. Wir wollen nicht so grob vorgehen, aber wir haben einen Groll gegen die Menschen im Weltraum. Diese Form ist seltsam, aber ich möchte, dass du auf einen anderen Planeten auswanderst.」


「どうやらドイツ語だな。拙いが。」


 雄大はドイツ語と理解したならもう話せる。雄大は、流暢―とも言えないドイツ語で喋り出した。


「Ich verstehe deine Situation. Wir werden umziehen, also hören Sie bitte auf, uns anzugreifen. Ich verstehe deine Situation. Wir werden umziehen, also hören Sie bitte auf, uns anzugreifen.」


 最初の男とは違う、別の男が早く出ていってくれ、とでもいうような雰囲気でしゃべり出した。


「Ab heute gehört dieser Planet uns.」


「gut. Ich gehe bald. よし、みんな、車に乗れ。」


 暮星家は全員車型の宇宙船に乗り込んだ。


「なぁ父さん、なんであんなに簡単に譲るんだ? 俺たちの家じゃないか。」


「一飛、あの人たちの状況を考えてみろ。この地球緑化計画の弱い部分に入ってしまった人たちだ。父さんも宇宙関係者としてCoAとかの星盗賊にはすまないと思ってるんだ。だから、な?」


 一飛は不服そうな顔をして窓の外を見た。一飛の目線の先には、CoAに乗っ取られたR-209が宇宙空間に浮かんでいた。


「お父さん、家なくなっちゃったけどどこに行くの? 他の星の星主になんてなってたっけ?」


「心配するなって。父さんに任せろ。父さんだって馬鹿じゃないんだから。」



 飛貴の右腕の上でカチカチと規則的に時を刻んでいた腕時計は、CoAの襲来から四時間が経過したことを必死に伝えようとしている。そんな時計をよそに、飛貴はすやすやと眠っていた。それもそのはず、暮星家にとって・・・・・・・は十時をとっくに過ぎている。

 惑星移住がスタートして23年。地球上だけでも時差は二十四時間あった。宇宙空間の中に無数に浮いている星の数々は、それぞれが重なって度々一カ月丸々夜という星も出てくる。各星によって時間が違うため、惑星間の移動はとても時差が生まれるのだ。そのため、他の惑星へ引っ越す時―特に惑星難民に襲われた時はなるべく同じ時間帯の惑星へ移住することが必要になっていた。


「SKI704, Request to land, K-821, with information D」


 雄大は右耳につけたインカムに手を当てミッションコントロールセンター(MCC)と通信した。MCCは遠い昔のミッションコントロールセンター――名前は同じだが管制する範囲が異なる――を基にして再構成された組織で、MCCの許可が降りなければ惑星の着陸はできない。と言ってもMCCの許可が必要なのは移住や大きな公共施設、例えば全宇宙統括管理センター(SMC)への着陸はMCCとSMCどちらにも許可をとらなければならないが、ただ単に移住するだけならMCCだけで良い、と言った感じだ。


「SKI704, Clearance to land K-821, Use Garage B」


 暮星家が乗ったSKI704は緩やかにブレーキをかけ、K-821に着陸した。


「さっ、着いたぞ。起きろ。」


 K-821に着いたはいいものの、重力増幅装置の設定や、大気を調整するなど、することは山積みだ。


「あ、教科書とか全部忘れちゃった…」


「また発行してもらえば?それか取りに帰ればいいじゃん。」


「嫌だよ、殺されるかもじゃん…」


 一飛が鼻で笑って続けた。


「いけるでしょ。確証はないけど。」


 一飛は左手に持った携帯を弾ませた。しかしそれは失敗に終わった。まだ重力増幅装置の調整が済んでいなかったのだ。一飛の携帯が宙に浮く。宇宙空間では、一度進んだものは大体の場合止まらない。二人はたった今・・・・その事実を目の前で確かめたのだ。


 一飛の携帯がどんどん離れていく。


「やばいやばいやばい」


 もう携帯は二人の手の届かない所へと行ってしまった。もう一飛の個人情報、プライバシーは一切守られないのだろう。ゆっくりと離れる携帯がそう物語る。


 飛貴がハッと顔を見上げて言った。


「兄ちゃん、車だ。」


「へ?」


「車を使おう。」




作者のコメント

 みなさま、あけましておめでとうございますわ。

 全く執筆できなかったのでございまして、大変なのでございます。(?)

 で、コンテストがもう終わりそうでございますわ。大変でございますわ。(誰)

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