第2話 星盗賊《スターギャング》

「ただいま。一飛、飛貴、いい子にしてたか?」


「やめてよ、お父さん。」


「少なくとも俺はいい子だったな。」


 飛貴が一飛に飛びかかろうとした。二人の間に割って入ったのは雄大だった。


「こらこら、二人ともやめろ。今…六時半か。サーキス先生との通信が繋がってるんじゃないか? 静かにしてないとまたお母さんに怒られるぞ。父さんはサーキス先生に挨拶してくるからな。待ってろ。」


 雄大は "Hi, professor. How are you doing?" と流暢な英語を話しながら彩野が通信している部屋へと入っていった。


「もう、何がいい子だよ。兄ちゃんがいい子なわけあるか。」


 喉が渇いた飛貴は台所へと向かった。すると、暮星家の飼い犬、ミルクが駆け寄ってきた。ミルクは暮星家の中では一番飛貴に懐いている。


「ミルク〜かわいいなぁお前はもう」


 ミルクが甘えるように吠える。


「ミルク、兄ちゃんはいい子にみえる?」


 まるで飛貴の質問に答えるかのようにミルクはワン! と吠えた。


「吠えただけじゃイエスかノーかわかんないんだよなぁ」


 飛貴は笑いながら貯水タンクの水栓のコックをひねり、コップに水を注いだ。

 このR-209は暮星家だけが住んでいる。なので水道は通っていない。ガスも、電気も、全て発電、貯蔵しなければならない。また、R-209から太陽方向に向かって四百二十マイル、そこからまたエルデという星に向かって七百八十五マイル離れたところにある「太陽系第二惑星衛星十七号各種ライフライン補給所兼休憩所リーファンガストハウス(S217LRGH)」での補給をしなければならない。


「あ、ミルクの分も入れとこ」


 飛貴はしゃがんで貯水タンクの下—地球の家でいうシンクの下からミルク用の水入れを取り出し、水を注ぎ込んだ。

 R-209は元々小さい惑星、それこそ太陽系第三惑星衛星T-124—地球では月と呼ばれている惑星ほどの大きさだったが、重力増幅装置によって0.9〜1Gほどの重力を生み出している。この惑星移住が始まった頃、二十年程前はこの重力増幅装置の加減が難しく、居住している惑星の重力に他の惑星が引っ張られて隕石となって衝突する事故が多発していた。現在はISAなどの努力のおかげで一般人でも操作が容易な重力増幅装置が開発され、そのような事故も減っていった。


「さっ、ミルクさ〜ん。お水ですよ〜」


 飛貴はまるでミルクに仕えているかのように水をすっと差し出した。飛貴にとって、ミルクが食べたり飲んだりしているところをみるのは、とても大事なことだ。この時代、友だちともそう簡単に会えないというストレスなどを一気に解消してくれる。


「あ〜、今日課題なくてよかった〜」


 飛貴と一飛が通う、地球立大宇宙おおぞら学園は、この宇宙空間で四つある学園の一つだ。

 元々はこの大宇宙おおぞら学園のみだったが、こんなに広い宇宙空間に一つの学校というのはとても無理がある。寮はあるものの、行き帰りだけで四時間を費やすなんて当たり前だった。それから、四つに分裂していき、そのうちの一つに二人は通っている。




 どんどん時間が過ぎていく。喉が渇いていたのか、ミルクは深めの皿に入っていた水—といっても水深は五ミリもないが—を飲み干してしまった。ミルクは嬉しそうに吠えた。


「まだ欲しいの? でももう水がなくなりそうだなぁ。明日汲んで来てもらおう。」


 ミルクはもっとくれと言うように吠えた。


「もう無理だってば。…ん?」


 飛貴は気づいた。ミルクは飛貴を見ているのではない。飛貴の後ろにある、貯水タンク、の後ろにある窓だった。


 謎の静寂が飛貴とミルクを包んだ。


 静寂を突き抜けてテレビニュースの音が流れてくる。


「続いて、星盗賊スターギャングについてです。」


 飛貴の心臓はドクンと跳ね上がった。嫌な予感がしたからだ。


「先日から、第三惑星各衛星を占拠していた星盗賊スターギャンググループ、クラン・オブ・アーミー(CoA)は太陽系第二惑星R系衛星への目標変更を検討していると発表していたが、一昨日から当該衛星の星盗賊関係の通報より、CoAは太陽系第二惑星R系衛星への侵攻を始めた、と宇宙警察本部が発表しました。」


「え、やばいじゃん」


 飛貴はそう言ったと同時に背中に変な汗が流れたのを感じた。逃げろ。飛貴の本能はそう言っているように感じた。しかし人間というのはなんと哀れなものか。好奇心が勝ってしまうのだ。飛貴は恐る恐る後ろを振り向いた。


 そこには、まるで黒死病が流行っていた頃に医師がつけていたような仮面をつけた―体格からして―男が立っていた。仮面の穴からは鋭く、どこか自身を憐れんでほしいような目がのぞいていた。その人物の背後には、「CoA」と書かれた旗を掲げた古い木造船―に見せた宇宙船が二艘が見えた。


「あ、あわわわわ」


 まるで漫画のような反応をした飛貴を見て、男は飛貴の視界からスッと消えた。飛貴は咄嗟に両親がいる部屋に駆け込んだ。


「お父さん! お母さん! 大変だ! CoAが来た!」


 雄大と彩野はもちろん、部屋の外でうたた寝していた一飛も飛び起きた。画面越しのサーキスや他の科学者たちも驚き、一部の科学者はついに来たかとでもいうような反応を見せた。



第二話 番外編


星主スターマスター 豆知識


 太陽系第二惑星R-209。太陽系第二惑星は金星のことである。太陽系第三惑星は地球のことだ。各惑星の名前、例えばR-209やT-124など。これは、作者の友だちなどの誕生日を使用している。今まで、と言っても三本しか出していないが、今までバレなかったのはすごいと思う。読まれてないだけということなどは言わないでほしい。


作者コメント


 いやさ、リーファンガストハウスは正味頑張れば(頑張らなくても)著作権引っかかるのよ笑

 大丈夫かな?笑

 てかこの「笑」が「わら」で出てこないんなんなん(どーでもいい)

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