第1話 地球緑化計画


「ねぇ兄ちゃん、まだ?はやく交代してよ!」


「ちょっと待てよ、もうすぐで……あぁっ!」


 部屋にピコピコと流れていたゲーム音が突然プツン、と切れ、悲しげな音楽とともにプロジェクターで投影した映像に「GAME OVER」の文字が浮かんだ。


「も〜、飛貴のせいでせっかくここまできたのに負けちゃったじゃんか〜」


「そんなの関係ないよ! 兄ちゃんが弱いだけでしょ?」


「はぁ?! 飛貴はここまで来れないくせに? よく言うよな〜」


「う…うるさい!」


 飛貴が一飛に飛びかかった。一飛はひらりとかわし、飛貴の顔面が一飛の向こうの床に向かう。ぶつかる――飛貴の足が顔より先についた。飛貴は大技を決めた体操選手のようにピシッと立ち、くるりと一飛の方を向き、睨みつけた。まるで地球では考えられない動作に見えた。


 そう、ここは地球ではない。太陽系第二惑星衛星R-209である。


 サーキスの発言から23年。暮星家はこのR-209において、ごく普通の生活を送っていた。


 飛貴がもう一度一飛に飛びかかろうとしたその時。


「こら!取っ組み合いしない!」


 二人の母―暮星彩野の怒号が響いた。


 彩野はサーキスの元、緑化について研究していたが、この地球緑化計画が実行された以上、彩野以外の暮星家は他の惑星への移住を進めなければならなかった。しかし、先にR-209へと引っ越した飛貴、一飛、そしてその二人の父、暮星雄大が三人とも片付けが苦手なことを知っていた彩野は、三人だけで暮らさせることは不可能に近いと悟り、引っ越した先でも惑星間情報通信網――スペースネットと呼ばれる――を通じて研究を続けることを条件に、この星に引っ越してきた。


「今からサーキス先生と通信するから静かにしといてよ!」


「はーい…」


 二人は声を合わせて母に従った。


 彩野が部屋に入り、サーキスとの通信を始めた。しばらくして、家の外からエンジン音が聞こえてきた。


「お父さんだ!」


 二人はうなだれていた頭を同時に素早く父がいるであろうガレージの扉に向け、走り出した。


 父―暮星雄大は、宇宙開発技術を駆使して宇宙開発を行う国際宇宙開発機構(ISA)に所属している、宇宙開発技術者だ。惑星間情報通信網を開発したのもISAである。


 雄大、彩野、一飛、飛貴の四人、そしてジャック・ラッセル・テリアのミルクを含む暮星家は雄大や彩野のお陰で早く惑星移住が可能になったわけだが、他の家庭、世帯において惑星移住はあまり容易なものではない。


 地球市民全員の移住計画は始まったものの、惑星移住には地球上の家、土地を購入する時のような手続きが必要になる。一つの星に一人の代表者が必要になり、その人は「星主スターマスター」と呼ばれる。一人の人が複数個の星の星主スターマスターになることができ、法人になると一つの惑星群をまとめて購入できるようになり、法人代表者は「惑星主プラネットマスター」となる。


 それぞれの星はのように購入することができるため、購入にはお金が必要になる。暮星家は宇宙関係者のため安価で購入することができたが、地球上で開きに開いた貧富の差の下方、貧困に悩む人たちは惑星を購入できず、移住することができない。

 人々は彼らを惑星難民プラネットレフュジーと呼んだ。しかし地球緑化計画のためには、惑星移住を進行させなければならない。計画と自身の状況に板挟みになり、星盗賊スターギャングとなって他人の星を不法に占拠する惑星難民プラネットレフュジーも現れるようになった。


 さまざまな法人、宇宙警察、惑星主プラネットマスターはこの惑星難民プラネットレフュジー問題を解消しようと取り組んでいる。しかし、一難去ってまた一難―一民去ってまた一民とでも言おうか―、惑星難民プラネットレフュジーはどんどん明るみに出てくる。


 地球は有毒ガスに満ち、惑星難民プラネットレフュジーで溢れ、広がった砂漠の砂による砂嵐に見舞われるようになった。


 この物語は、そんな地球に緑を取り戻すまでの物語だ。





第一話 番外編


星主スターマスター豆知識


 暮星家の犬、ミルク。彼は雄のジャック・ラッセル・テリアだが、雑種である。彼にはさまざまな血が混ざっているが、その中には世界で初めて宇宙に行った生物、ソ連のライカの血も混ざっている。ライカが宇宙から地球に戻ってくることはなかったが、ライカが地球を飛び立つ前、まだ放浪犬だった頃に産み落としたと言われている犬の血が混ざっているらしい。

 暮星家はそれを知らずに飼い始めたのだが、血液検査の時に判明した。宇宙関係者であった雄大は伝えられた時にとても興奮した様子でミルクに構おうとしたが、構いすぎでミルクに嫌われ、今では雄大には擦り寄っていかなくなった。

 飛貴は単に初めてのペットということで興味津々になり、近寄っては引っ掻かれ、近寄っては引っ掻かれ、ということを繰り返していた。しかしある時飛貴が引っ掻かれた所が少し腫れてきたように感じ、ミルクに冷たくするようになった。それを感じたミルクは飛貴に謝るように引っ付いていくようになった。ただのごまをするようにくっついていたのがだんだんと懐くようになり、今に至る。


作者からのコメント


 当て字多くてすいません。どうしても厨二病は抑えられないんです。この両腕が勝手に疼くんです。(このコメントさえも厨二病)

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