第5話 要は私が勝って終わるだけのシンプルな話
エルさんと赤髪の長が、それぞれの防具を着ける。試合のルールは、突き技が無い剣道のようなものだ。
そして勝負は────悲しい程、あっさりと終わった。エルさんが弱かった訳では無い。技術は互角だったと思う。差が付いたのは、それ以外の要素だった。まず身長の差だ。
エルさんは私より十センチは背が高いけど、そのエルさんより赤髪の長は、更に十センチは背が高かった。当然、腕も相手の方が長いから、エルさんより遠い位置から攻撃が届く。
筋力も赤髪の長は、エルさんより強かったのだろう。剣の速度が
「嬉しいぜ、お前をあたしの物に
防具を
「……私は同性しか愛せない。そんな者は家の邪魔でしか無かったんだ。私の犠牲で集落が救われるなら、それを運命として受け入れるさ」
エルさんは、まるで犯罪者が逮捕されるみたいに、向こうの集落の女性達から取り囲まれた。そして連れて行かれようとしていて、誰も止めようとする者は居ない。
「ちょっと待ったぁ!」
大声を
「私とも勝負しなさい! 負けたら十年間、夜伽でも何でも、やってやるわ!」
周囲が
「正気か? お前が生きてきた年月の何倍も、あたしは剣を振ってきたんだぜ。勝負に、ならねぇよ」
「ならハンデを
赤髪の長は私を
「分かった、分かった。じゃあ、あたしは防具を
私の攻撃を
「確認したいんだけど、そっちが負けた場合は? ここの集落の長を解放してくれるんでしょうね?」
「ああ、解放してやるさ。ついでにあたしの命も
いかにも戦闘狂な
「おチビちゃんには防具が必要だろう。待っててやるから用意しな」
「それは集落の人に持ってこさせる。それより、試合前にエルさんと
私は周囲に「私の防具を持ってきて!」と、木剣を振り上げながらお願いする。頭をかち割られるとでも思ったようで、何人かが走っていった。そんな中、一時的に解放されたエルさんが、私の前まで歩いてきた。
「何て事を言ったんだ! 試合に負ければ十年、拒否も
「それはエルさんも同じでしょ。エルさんは、いっつも他人の心配ばかり! それで結局、自分だけが犠牲になっちゃう。馬鹿みたいな生き方だよ!」
「な、何を……」
「でも好き! そんな優しいエルさんが私は大好き!
「……分かっているのか、十年の
「考えてるよ。エルさんと一緒に居る事が私の幸せだもの。知ってる? 私が居た所の言葉なんだけど、結婚式の時の決まり文句。『
愛し、
「話は終わったか? ずいぶん人間族から愛されてるじゃないか。その小娘が勝っても負けても、お前達は一緒に居られる訳だ。あたしが試合で叩きのめして、連れ帰って小娘の世話をしてやってもいい。安心しろ、きつい仕事はガキに与えないさ」
赤髪の長と私の身長差は、二十センチくらい。そして相手の実力は剣道の高段者クラス。私の勝ち目は
「……勝算はあるんだろうな」と、エルさんが私に言う。「まあ、全く無い訳じゃないよ」とだけ私は答えた。対戦相手が近くに居るので、作戦を話す訳にも行かない。
「こんな事を言う事になるとは思わなかったが……この状況を
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