第15話 一区切り
明らかに領域を分ける長さの下り道。
十層の領域ボスの部屋も明るかったが、その下もかなり明るい。
「あー、こりゃあダメだな」
「荷物持ちクン、鼻と口を塞いで」
「は? あ、うん」
息ができなくて死んじゃうと言おうと思ったら、ジエゴは手拭いで鼻口を覆っていた。他の二人も。
そういう意味かとルフスも同じようにする。
ダメだとモーリッツは言ったけれど、そのまま下まで進んだ。
十一層の入り口。
その先は、今度は岩の柱も何もない、だだっ広い空間だった。
青空さえ見える広い空間に、見渡す限りの稲穂……ではなく、ススキのような背の高い植物が群生している。
大河の川辺のような光景。
起伏のほとんどなさそうな岸辺に群生して、麦のように頭の方に実をつけている植物。
「また植物のモンスター?」
「いや違う。トゲアワハキだ」
「ダンジョン独特の植物ね。表にあったら困るんだけど」
「火を使うな。最悪爆発する」
先ほどうっかり壁破りの赤い瓶を手にしてしまったこともあって、先にアイヴァンが注意してくれた。
火を使うと爆発する。
幸いというか明るさは十分だったので松明は灯していない。
「目印になるもんが見当たらねえな。こいつはやっぱり無理だわ」
「引き返しましょ」
だだっ広い空間に、ルフスの目線くらいの高さのススキ風植物。トゲアワハキ。
ふわふわと綿が飛んでいるせいか、空の方は薄っすら白い。
ダンジョン内なのに空が見えるのは、ここも休憩エリアと同じようなものなのだと理解する。
ただの地中洞窟というわけではない。
「綿ん中に棘があって、吸い込むと当分は呼吸するたびに痛くて吐きそうになるぞ」
「治癒の奇跡じゃ治せないの。気を付けてね」
「ん」
口を覆っていた布を、いっそう強く手で押し当てた。
モンスターではないが危険なエリア。
「これのせいでモンスターもほぼいない。だが進む道が見つけられない」
「腰を据えて道を探さないとだから準備が必要よ。キリもいいし一度町に戻るわね」
「他にどうしようもねえからな」
探索にかかった費用の採算は取れていない。
けれど他にどうしようもない。一度町に戻る。
ルフスの初めてのダンジョン探索は、まあまあ渋い結果で終わった。
生きて戻れない人間も少なくないと言うのだから、命を繋げたことを感謝すべきなのだろう。
「……」
しかし、借金の返済はどうなるのだろうか。
どうしようもないと思っても、なかなか割り切れない気持ちも残ってしまう。
「焦りは失敗の元だ。ダンジョンでの失敗は死だ」
「……わかってる、つもりだよ」
頷いてみたものの、下ってきた道を戻るのは、なんだか背中の荷物が重くなったように感じさせられた。
◆ ◇ ◆
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