第6話 学びと展望
二層への下り通路。
こうして一層、二層との区切りがわかるダンジョンもあれば、区分けなどほとんどわからない場合もあるらしい。
植物やモンスターの生息が変わってくるからそれを判断材料にすると言う。
「看板でも出ていればいいのに」
「そういうダンジョンもあるぜ。たいていヤバい系統だけどな」
ルフスの下らないぼやきに前を行くモーリッツが片手を上げて答えた。
お手上げだと言うように。
「こういう自然洞窟とは造りが違うダンジョンね」
「極めて知能の高いモンスターか何者かが建造したことになる。侵入者に挑戦的なダンジョンだ」
後ろからジエゴが続け、アイヴァンが軽く首を振って補足する。
天然の洞窟ではなく何者かが建造したようなダンジョン。
「罠とかあるの?」
「当然あるわな。その手のダンジョンだと最下層に支配者級のモンスターがいるって聞くぜ」
「倒すとダンジョンそのものが消滅するってね。実際に見たことはないけど本当らしいのよ」
「
「へえ」
探針大連盟というのは、世界最大の探索者のコミュニティだと聞いた。
他にも地域によって大小あるが、世界規模で最も広く情報共有しているのが
ダンジョン探索はどこの国、地域でも恩恵があるので、探索者同士の相互扶助――助け合いも推奨されているのだとか。実際には邪魔をすることも少なくないというのが実に人間らしい。
他にも、排他的な集まりの連合もあると聞いた。秘密結社キノニア・オニロとか
「誰かが建造っていうとエルシラ地下宮とか?」
「この国ならその辺だろうな。俺らも行ったことがないから看板があるかどうか知らねえけど」
「
ルフスが選ばなかったダンジョン、エルシラ地下宮。
有名なだけではなく危険度も高いダンジョンだったらしい。選ばなくて正解だった。
地下宮という名前から想像しても人工的な感じがする。モンスターが造ったのなら人工というのはおかしいのか。
とりあえずダンジョンの選択は間違えていない。
それ以上に思うこともある。
――モーリッツ達のパーティでよかった。
ダンジョンのことを何も知らないルフスにひとつひとつ教えてくれる彼らに感謝する。
自分たちの安全の為だというのかもしれないが、やはり彼らは親切だ。
女神は夢で三度のチャンスを与えてくれると言っていた。商売に失敗して借金を背負ったのは、きっとそれも女神の思し召しというやつだったのだろう。
◆ ◇ ◆
朱色の巨大芋虫は火食い。
松明を置けば引き寄せられるから、腹の少し下を踏みつぶせ。
ダンジョンで食えるキノコは縦じま模様。横しまキノコは毒。
かじりかけの縦じまキノコを見つけたら天井に気をつけろ。
下がり蜘蛛が張り付いている。ぶらんと落ちてきて捕まるぞ。
雀蝙蝠は素早いが対処は簡単だ。
高い音を嫌うから鍋でも叩いて追い払え。それより下に気をつけろ。金属音でレッサーウルフが寄ってくる。
縦じまキノコを焼いた灰を撒いてやればのたうち回る。
モンスターの始末が終わったら清浄の形代使っておけ。
吸い込み過ぎるとお前も眩暈で辛くなるぞ。
二層、三層と進む中でもいろいろなことを教わった。
ルフスもだんだんと理解する。モーリッツ達にはまだ余裕があるのだと。
モンスターの相手をしながらでもルフスの教育をするだけの余力がある。彼らは熟練のダンジョン探索者だ。
敵が襲ってきても慌てない。
数が多い時はアイヴァンのぶちかましなどで距離を取ったり、地形を利用したり。
素早く判断してルフスに適切な指示を出す。
予備の道具の使用なども必要だと判断すれば躊躇しない。道具を惜しんで怪我をする方が無駄だという。
彼らは理想的な手本をルフスに示してくれた。
ダンジョン探索というのはこういうものだと教え、実地で学ばせてくれる。
ここまで親切にしてもらう理由がないと感じるほどに。
「っと、五層を抜けたな」
モーリッツが大きく伸びをした。
気持ちはわかる。
抜けたという彼の言葉に間違いがないだろうこともすぐにわかった。
大広間というか、明るい陽が差す中庭のような空間に出たからだ。
「洞窟の中なのに?」
「理屈はわからんがどこのダンジョンでも一定区間ごとにこういう場所がある」
「神様のお慈悲ってやつでしょ。それか、欲深い人間を奥に引きずり込む為なのかも」
足の短い草と、多少の樹木の間に小川が流れている。
薄暗い洞窟の中を十日以上歩いてきた。
天井の見えない広々とした明るい空間に出て、ルフスもモーリッツと同じように大きく腕を伸ばす。
「太陽……じゃないんだよね?」
「たぶんな。飛んで調べた奴の話だと、上の方に割れないガラスみたいな壁があるって話だ」
「夜にもなるのよ、これ。洞窟の中だと時間の感覚がおかしくなるから」
ダンジョンに用意された休憩場所。
唐突な不自然さを感じて、前にアイヴァンが言っていたことを思い出す。
「神様の悪ふざけ……遊戯盤、だっけ?」
「そう言われる理由のひとつだ」
理屈ではわからないことでも事実として存在する。
神様がそんな風に決めたのならそういうものなのだろう。ルフスがあれこれ考えても仕方がない。
「昼前ってところかな」
「明日の朝までここで休憩だ。ここは安全だから気張る必要はねえぞ」
「清浄の祝福を使うこともないから下着くらいは洗っちゃいましょうね」
「あぁ」
ベテラン探索者でもやはり安全地帯にくれば安心するらしい。
生真面目な性格のアイヴァンさえ、手持ちの武器や道具を適当に転がして小川で顔を洗い始めた。
ルフスも背負子を下ろして、もう一度大きく伸びをする。
気のいいパーティ仲間のおかげでルフスもダンジョンに慣れてきた。
大きなトラブルもなく順調な進行。この調子なら遠からず借金を返せそうだ。
◆ ◇ ◆
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