第26話

 一閃が座席に座ると、ステージのメインスクリーンに侍とアサシンがアニメ調で技を繰り出す。二人の影は舞い落ちる木の葉を刹那に斬った。音楽が近未来的なのに、どこか和風で不思議な曲調を奏でた。


 まさに一閃チームはスピード感のある怒涛の攻めが特徴的だ。そのプレイスタイルをよく表現しているものだと卓は感心した。


 コクピットのような席に卓たちも座ると、初戦で流れた竜王の映像を見上げる。一閃がそうであるように、竜王のイメージは、地に眠る竜が蒼天を昇り彩られると火を吐く。つまり突如現れた新米チームが、大番狂わせを起こすといったところか。


 司会者は大きく手を挙げて、振り下ろす。


「キックオフ!!」


 竜王チームのキックからスタートした。小海がボール蹴って一度センターフォワードにパスを出すと、卓は攻めのエース8番を上がらせる。


「いつもの得意な戦法で行くよ」


 愛華はセンターフォワードから8番にパスをするが、少しタイミングが早い。十分に敵の守備を引き付けられていなかった。


「愛華ちゃん、少し間を持たせて! 焦らずいつも通りいこう!」


「は、はい!」


 しかし8番のドリブルで敵を一人かわすと、もう一人が来る前にパスを逆サイドに繋げるはずが、そのまま敵と一対一になってしまった。


「えっ! 愛華ちゃん⁉」


「ああわわっ……!!」


 二人分の守備の猛攻には流石にエースでも耐えられず、スタミナ最大の8番は初めてボールを敵に奪われてしまった。


「愛華、大丈夫! 私が守るから!」


 愛華も小海も緊張などしていないように見えたが、実際は浮足立ってパフォーマンスに波がある。とても良いプレイをするときもあれば、信じられない凡ミスを出す。

 観客席から悲鳴のような声が聞こえるが、すぐに必死の声援に変わった。


 卓も小海に負けないよう自身を鼓舞した。

 一閃は攻めを主力とした戦法のため、こちらの初回の攻勢でゴールできなかったことは、正直なところ精神的にもキツイ。小海と観客の声を聴いて、卓はすぐに頭を切り替えた。


 敵のウイング9番が駆け上がり、コーナーの近くに走ると逆サイドとセンター両方から敵が走る。

 卓はフリーな選手を作らないようにカバーをした。

 一方小海は、敵ウイングに守備のエース2番を走らせながら、守備のミッドフィルダーで退路を断つ。味方選手を何度も切り替えながら、並行操作で挟み撃ちにする荒業を披露する。

 敵はパスの場所を見失い、大きく後方のディフェンスにボールを戻した。


「上手いっ! 小海、いままで本気でやってなかったな」


 敵のパスラインを遮断するように、細かく味方選手の配置を調整すれば、パスミスになりこちらのボールになる。

 卓の『ピン』では選手の位置が適当になり、ラインを遮断することは不可能に近いが、プレイヤーによる微調整であれば、パスラインを消すことは可能だ。


「うまくねーよ。敵からボールを取るのが守備だからな……!」女傑のように小海は息巻いた。




 一閃は冷静さを取り戻すように一呼吸おき、選手の位置を微調整すると、ボールを支配しているディフェンスがそのままドリブルを始めた。


「ん?」ラグビーのように一直線に並ぶ一閃の防衛ラインを卓は凝視する。


 ドリブルは続き、守衛のラインがセンターサークルまで上がった。


「おいおい! これは……!!」卓の頭の中で数値が乱高下する。敵の攻めのラインが複数ありすぎて判断ができない。


 守衛ラインがセンターラインを越えて敵陣に入る場合、オフサイドがなくなる。そのことを一閃チームが知らないはずがない。ボールをとられれば、失点することを分かって攻めているのだ。


 小海の頭が小刻みに揺れた。「ど、どういうこと……これ⁉」


 初めて見る攻めの波に押しやられるようにして、ディフェンダーはペナルティエリアへ退く。


「……! とりあえず、ペナルティエリアに守備を集めて、ボールをカットすることだけを考えよう」


 卓が支持を出した瞬間、わずかな縦ラインの穴を通って、ペナルティエリアの敵11番にパスが通る。

 走りこんだ一閃のウイング9番に小海が反応し、守備を動かすと、11番がそのままドリブルして、並行操作する小海のスライディングを抜けた。


 11番はボールを蹴る。



「ゴーーーーーーール!!」


 一閃が先制点を上げた。

 小海は肩を落とし、卓は頭を抱えた。


「一閃が同じように守備ラインを上げるのならば、ペナルティーエリア付近で守るしかない、そこから躊躇なくカウンターだ」



 ゴール後のキックは竜王チームから始まる。


「二人とも、ボールを失わないように。一閃は攻めが上手いが、守りはこちらより劣る。余裕をもって対応すれば、取られることはない」


 愛華は最初のキックオフでミスしたことを悔やむように頷く。


 慎重にラインを考えながら攻めるが、逆に愛華の思い切りの良さが出なくなってしまった。


 前半戦は0-1の一閃リードで終わった。

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