第6話
「分かった。やれるだけのことはやってみよう」卓は座って、背筋を伸ばした。
味方のディフェンダーとミッドフィルダーのステータスを確認すると、前回の試合と同じだったことに気づいた。
「あれ、背番号とステータスは変わらないんだな」
「当たり前でしょ、チームのメンバーがコロコロ変わったらチームの意味ないじゃん」小海はゴーグルをつけて、イスにスタンバイする。
卓は前回の試合ですべての選手のステータスを頭に入れていた。
サッカー場を将棋盤に見立てて駒として選手を記憶する。
そうすることで、暗記を素早く行うことが可能となった。そして何よりも、臨機応変に対応しなければいけない状況で、いちいち画面横のステータスリストを確認しなくても判断ができる。操作が不慣れであっても、愛華と同じぐらい早くボールを処理することができたのは、棋士としての特殊な暗記能力があったからだった。
――しかし敵陣の能力に関していえば、前半戦の情報がないため、いちから敵のスタミナを測らなくてはいけない。
後半戦のキックオフのホイッスルが鳴る。
愛華が11番で攻め込むが、敵陣のディフェンスは一人がアタックする後ろで、もしも抜けられた場合のフォローも考えた配置となっていた。
「敵のディフェンスはよく考えているな。だが、ある意味、ここまで11番に対して防衛を強めるのならば、11番のスタミナを読み切れていないということだな」
しばらく膠着状態が続くと、敵は有利になっていく。敵は少しづつ情報を分析し、最低限の防衛網を張り巡らす。そしてタイムアップすれば敵の勝ちなのだ。
愛華はボールをコントロールするのが上手かった。
ギリギリまで敵を引き付けて、空いている空間にパスをする。そしてミスがない。
しかし10番がボールを受けたとき、敵と1体1になりパスカットで捕られてしまった。
「ああっ!」と愛華は声を漏らすと、卓は自分の出番だと意気込む。
相手は速攻で攻めて来るが、一度目のディフェンダーがパスカットをできずとも、二番目のディフェンダーがより高いパワーでカバーできるように配置を整えている。
前半戦とは異なる理にかなった配置に、どうやら敵は気付いたのか、ボールをセンターにもどして急ブレーキをかけた。
「監督さん、10番のスタミナは敵さんに筒抜けだよ。選手交代じゃないか」と卓は小海に意見する。
「……前半戦で選手交代を使い切った」
ふつうは後半で選手交代だろ、と卓は思ったが小海にこれ以上突っ込むのはやめた。
「あまり、意味のないディフェンダーの交代でしたけど」と愛華が早口で喋る。
「じゃあ、10番はセンターまで下げて、防衛のミッドフィルダー8番をフォワードの位置まで上げよう」
小海は卓の助言に従うと、敵のミッドフィルダーが防衛ラインまで下がり、敵のオフェンスが薄くなる。
少ない敵選手のスタミナを数当てしていくことに、それほど時間はかからなかった。卓は鉄壁と思える防衛ラインを形作ると、まるで罠に飛び込むように敵が3番のディフェンダーと対峙する。
3番がスライディングでボールを弾き、運よく味方のミッドフィルダーがボールを取り愛華の10番につなげる。
「あとは任せたよ」と卓は愛華に伝えた。
「いえ、お父さんの8番にパスします」
「えっ……?」卓は急いで、操作する選手を8番のミッドフィルダーに変更する。8番は確かに敵サイドまで上がっていた。
「お父さん、ゴールに向けてスティックを倒して!」と愛華。ボールを受けた8番はドリブルをして、ペナルティエリアまで走りこむ。
「お父さん、そこで、マルボタンをずっと押してください!」
言われたとおりに押し続けると、シュート画面に切り替わり卓の8番がシュートする。
――ボールは敵のゴールネットを揺らした。
卓は思わず「よっしゃー!」と叫んだ。愛華と小海は拍手するが、そこまでテンションは上がっていないようだった。少し恥ずかしくなり、卓の顔は赤くなる。
まだ得点は5-4なのだ。
二人はまだ逆転をあきらめていない。卓は座り直した。
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