第67話 夜見美月の暴走①
最近何やら夜見さんの様子がちょっとおかしい。
もちろん、夜見さんは普通の女の子ではなくキツネ娘なので家にいる時はピンと立った耳と手入れの行き届いたモフモフの尻尾がある姿だ。最初に見た時は驚いたけど、三日もすれば慣れてしまい、一月近く経った今ではそれが夜見さんの普通の姿でその姿を隠して学校にいる時の方がちょっとした違和感を感じるくらいだ。
したがって、夜見さんの様子がちょっとおかしいというのは、そういうことではなく、普段の生活の中での何気ない仕草とかのことだ。
これからちょっとおかしい夜見さんについていくつか紹介していきたいと思う。
【ケース① 一緒に家で夕ご飯を食べている時】
一人暮らしを始めてから一年間で俺身体はコンビニ弁当やスーパーの総菜に染まってしまっていたのだけど、夜見さんが来てからは彼女の優しい味の家庭料理にすっかり染め直されてしまっていた。
味が濃いわけではないけれど、しっかりと出汁の効いた料理は素朴だけれど飽きがこないもので、野菜が不足していた俺の食卓のバランスは一気に改善されて身体の調子もいい。
そんな食事を俺はいつも楽しみにしていて、いつも美味しいって言いながら食べていた。
でも、最近、ご飯を食べている時の夜見さんの様子がちょっとおかしい。
「夜見さん、最近なんだか俺が食べているところ見過ぎじゃない?」
そう、最近夜見さんは俺がご飯を食べているところをじっと見つめてくることが多い。夜見さんが俺のところに来た初日も俺が食べているところじっと見ていた。でも、それは夜見さんの料理が俺の口に合うかどうか心配だったのであって、今は新作の創作料理でなければそんな心配をすることはないのではと思う。
「そないなことあらへんよ。うちは陽さんが美味しそうに食べてくれて嬉しいです」
「夜見さんの料理はいつも美味しいからね。でも、そんなにジーって見つめられるとちょっと食べづらいというか」
「ダメですか。うちは陽さんが美味しそうに食べてくれはる姿もっと見たいというか、出来れば動画で保存しておきたいくらいなんやけど」
「動画とか絶対にやめて、夜見さんがそれを流出させたりはしないと思うけど、撮られてると思うとご飯に集中できないから」
おっさんが美味しそうに外食しているだけでドラマは成立するかもしれないけど、俺がただただ普通にご飯を食べている姿なんて需要ゼロだからね。
【ケース② お風呂上がりのまったりしているときに……】
お風呂に入った後の一息ついていた時間にそれは起こった。
「あの、陽さん、ちょっとお願いがあるんやけど」
お風呂上がりのほわっといい香りを纏った夜見さんがソファーに座っている俺の横にぴたっとくっつくように座ってきた。お風呂上がりのほんのり桜色の頬がいつもよりも艶っぽさを演出していて、横にいるだけで俺の心拍を上昇させる。
お風呂上がりのこの時間はよく一緒にお茶を飲んだりしながらゆっくり過ごすのだけど、いつもはこんなにぴったり俺の方にくっついて来たりすることはない。そして、いつもより水分量の多い瞳でこちらを見つめながらのお願いとはなんだろう。
俺の本能はこの先に危険がありそうだということをしきりに訴えかけてきているが、この状況でお願いの内容も聞かないまま断るなんてことはできない。
「お願いってどんなこと?」
「陽さんの耳を掃除させて欲しいなと思て」
「えっ、俺の耳そんなに汚い!?」
一応、弁明しておくけど俺は定期的にお風呂上がりに綿棒を使って耳を掃除している。もちろん、自分では見えない部分だから汚れが残っていることはあるかもしれないけど。
「いえ、汚いとかいう意味やないです。ただ、その陽さんをちょっとでも癒してあげれたらええのにと思ったところです」
耳掃除なんかしなくても夜見さんと一緒に暮らしているだけで大いに癒しになっているのだけど……、それよりも夜見さんに耳掃除をしてもらうなんて行為が恥ずかしいというか、俺がまともでいられないというように感じる。
ここは夜見さんの好意だけを受け取って、耳掃除は丁重にお断りをした方がいいのではと考えていると、夜見さんのもふもふの尻尾がぶんぶんと左右に振れているのが見えた。これは以前に俺のファンタスティック作品の所有がばれた時の尻尾のぶんぶんに似ている気がする。
もしかして、このお誘いを断るとまた夜見さんからあの教育的指導が……。
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次回、夜見さんの激しい攻撃が陽君を襲う。
公開予定:3月31日AM6時です。
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