幕間 帰り道分かれ道(夜見さん視点)

 夕焼けを背にしながら陽さんと二人並んで歩いている。夕方だからといって肌寒い日と感じる日はなくなった。きっと、もう少しすれば少し前まで寒かったなんてことを忘れたように暑い暑いと言う日々がやってくる。


 陽さんのもとにやってきて三週間余り、まだ一月経っていないけど、うーたんの言っていた結果を出すまでの猶予期間はあとどのくらい残っているのだろう。


 だから、お風呂に入っている時に隣にうーたんが現れてすごく驚いた。もしかして、結果を出せていないから許嫁失格と言われるかと思ったからだ。


 幸いにして、そういう話ではなくて、うーたんから告げられたのは陽さんからうちが御利益を果たせなかったときに襟巻にされるということをなしにしてくれと申し出があったということだ。このことはうーたんとの事前の打合せで失敗したらそうなると言うように指示があったのであの時に話した。

 

 うちは万が一御利益達成ができなくても、うーたんがそんなひどいことをするとは思っていなかったので、雷様におへそを取られるくらいのつもりでいた。


 うーたんに陽さんがどうしてそんなことを申し出たのかと聞いてみたけれど、うーたんからそういうことは自分で聞いてねぇと言われてしまった。


 銭湯からの帰り道で陽さんに聞いてみようと思ったのだけど、初めての銭湯はどうだったというような話をしてしまって、目的の話題をなかなか切り出せないでいた。


 でも、タイミングは住んでいるマンションまであとちょっというところで突然やって来た。


「ねえ、夜見さん、うーたんからはもう話は聞いた?」


 少しだけ歩く速さを落とした陽さんはうちの方を見ないで話し始めた。


「話って、襟巻のこと?」

「うん」

「それならお風呂に入っているときに聞きました。でも、なんで急にそないなことをお願いしはった?」

「それはそのことが俺と夜見さんを縛っているというか、俺と夜見さんが一緒にいることの契約の一部みたいな感じがして嫌なんだよね。初めて夜見さんがやって来た日に俺は夜見さんから襟巻の話を聞かなかったらきっとお引き取り願ったと思う。でも、今はそのことがあるから次に進めないというか、そのことが引っ掛かるというか……」


 話が進むほど歯切れが悪いような何か奥歯に物が詰まったような話し方だった。


 たしかに、初日に襟巻のことがあったからうちを追い出さなかったということはわかるけど、次に進めないとかというのはどういうことなのだろう。


 まさか、襟巻の件が無くなる→うちを追い出しても罪悪感がない→新しい許嫁の子とイチャイチャ過ごす。


 そ、そないなこと……。


 でも、最近はテストもあったから普通の落ち着いた生活だったし、勉強の邪魔にならんようにくっつきたい気持ちを押さえていたんやけど、陽さんからすると退屈で可愛げのない女やと思われてしまったんやろか。


 ここまできてうちは負けヒロインルート……。


 どないしよという不安な気持ちが一気に心の中を侵食していく。うーたんはこのことがわかっていたから自分で聞くようにといったのだろうか。そうだとしたら、月ヶ瀬のオジサンの娘さんと交代させられてまう。


 うちはこの日のその後のことはあまりよく覚えていない。この生活が終わってしまうのではという不安が脳内のほとんどをしめてしまったからだろう。

― ― ― ― ― ―

 連日、ブックマークや★★★評価★★★、応援をいただきありがとうございます。

 次回は焦る夜見さん暴走です。

 公開予定:3月29日AM6時です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る