第62話 うーたんの決断(夜見さん視点)

 な、なんや、この映像は!?


 見ている途中から恥ずかしくて顔から火が出そうというのはこのことなのだろうと思った。真っ赤になっているであろう顔を見られるのが恥ずかしいから手で顔を覆うと頬の熱が手に伝わってきた。できることなら、しばらくの間トイレに籠って気持ちを落ち着かせたい。


 でも、この重要な局面で席を外すわけにいかず、手を顔にやったままゆっくりと呼吸をして気持ちを落ち着かせようとしていると、お父さん冷静な語り口で再び話し始めた。


「追加調査の結果はご覧になった映像のとおりです。東雲君は娘に興味が無かったり嫌いであったりするわけではないことはわかっていただけたのではないでしょうか」


「星重郎、たしかに今の映像からすると、東雲君が美月ちゃんのことを高嶺の花のように思っていることはわかるが、果たして、高嶺の花のような存在が急に許嫁として現れて上手くいくかね。なんでも、物事にはちょうどいいバランスっていうものがあるだろ」


「ええ、月ヶ瀬さんの言うとおり物事にはバランスがあると思います。それを踏まえても娘と東雲君は悪くないように思います。彼は自己評価があまり高くないのであのように言っていますが、彼の調査結果を見ると自己評価と調査結果には乖離が生じていると思います」


「それではどっちに重きを置いて彼を評価するんだ。東雲君の言葉か調査結果の資料か。いい所だけを切り取って結論に導き出すのは稚拙じゃないか」


 こうなってくるとお父さんと月ヶ瀬のオジサンとの舌戦はどんどん激しさを増してくる。最初は冷静な口調だったお父さんの言葉にだんだんと熱がこもっていって、このままでは一発即発の乱闘騒ぎになるのではと心配になってきた。


 どうしたものかと思って、うーたんの方を見るとうーたんは、また始まったとでもいうような冷めた視線を二人に送っていた。


 そして、いよいよこれ以上はというところまで来たかと思ったときに、うーたんがパンパンと手を叩いて立ち上がると、お父さんたちははっとして前のめりだった姿勢を元に戻すとそのままうーたんの方に正対した。


「はいはい、二人ともいい大人なんだからそのくらいにしてねぇ。さて、それよりも美月は自分から手を挙げてくれたけど、本当に大丈夫? きっと、許嫁として東雲君のところに行っても楽しいことばかりではないと思うよぉ。今の状況からするときっと彼が辛い時期に行くことになる」


 うーたんの貫くような視線はうちの心の奥までを見透かしているような気がした。


 こないな日のためにこれまで頑張ってきたんや。

 絶対にここは譲らへん。


「もちろんそれは承知してます。大変なことだと思いますが、許嫁としてめいを全うできるように頑張ります」


 うーたんはこくりと一度頷くと今度は月ヶ瀬のオジサンの方を向いた。


「月ヶ瀬の娘はここにいないけど、もし、許嫁に決まったら大丈夫なの」

「はい、そのことについては事前によく話しておりますので、うちの娘も許嫁としての命を全うできるように全力を尽くしてくれると思います」


 月ヶ瀬のオジサンが言い終えるとうーたんは目を閉じて、ふーっと長く息を吐き切ってから口を開いた。


「美月も月ヶ瀬も御利益を達成するとか、命を全うするとかという気持ちで東雲君に接したらきっと上手くいかないと思うよ。今回は参拝をした本人ではない人のところに行くわけだから、そういう気持ちで行くよりも自分も東雲君と一緒にいることが楽しいと思えるような気持ちでいないと。そこまで鑑みて考えると今回は美月に許嫁として東雲君のところにいってもらうのがいいと思うよ。だけど、調査にあるように月ヶ瀬の娘も劣っているわけじゃない。だから、しばらく様子を見て美月が結果を出せない時は交代させるねぇ」


「お、おおきにありがとうございます。うち自身も一緒にいることを楽しめるようにしたいと思います。それと、これはちょっとした確認なんですが、結果を出すというのはどないな――」

「美月、十代の若い男女が一緒に暮らすんだよぉ。そういう時の結果といったら……、あっ、もうこんな時間だぁ。このあとも予定が詰まっているから私は席は外すね。とりあえず、結論は夜見美月を東雲陽の許嫁として向かわせるというこだから、あとは二人が上手くいくように各々よろしくね」


 うーたんは壁に掛けられた時計の方を一瞬見てからおっといけないという表情をすると、自分の資料は事務局の人に投げるように渡して駆け足で会議室を出て行った。やはり、神様という存在は分単位のスケジュールなのだろうか。


 一方、うちはうーたんの結論を聞いたところで、よしっと心の中で思いっきりガッツポーズをした。それと同時にうーたんの求めている結果ってやっぱり……という気持ちとしばらく様子を見るってどのくらいの期間なのだろうという不安が心の中でぐるぐると渦を巻き始めた。

 

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 およそ一月半に渡り休載して申し訳ありません。今後は二日に一度のペースで更新していけたらと思います。今後とも応援のほどよろしくお願いします。

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