第61話 追加調査(後編)
「ん? どうかしたか陽? わからない問題でもあったか」
「い、いや、そういうわけじゃないんだけど。勝又からそんなセリフが飛んでくるとは思わなかったよ」
「えっ、あっ、お、お前さん失礼なことを言うじゃないか。俺だっていつまでも遊んでばかりいるわけじゃない。無事にテストを終えないとクリスマスも補講になっちまうからな。充実したクリスマスそして新年を迎えるためにも日々予習・復習に余念がないってものよ」
どうしたのだろう。何かへんなものでも食べたのだろうか、それとも優秀な奴の爪の垢でも煎じて飲んだか……。
「充実したクリスマスってお前にいつ彼女ができたんだ。いつも卑猥な視線で見つめている隣のクラスの暮方さんに告白したのか」
「いーや、告白はしていない。でも、俺はこのテストが無事に終わってから告白すればきっとうまくいく気がするんだ」
「うわぁ、めっちゃ死亡フラグ立ってる」
「まあ、俺のことはどうだっていいだ。陽こそどうなんだ。いつまで大久保さんの外堀を埋めてるんだ。このままだと外堀どころか本丸まで全部埋まっちまうぞ」
彼女もいなければ告白だってしたことのない勝又に言われたくはないのだけど、現状は正にそのとおりなのでしょうがない。俺はたとえ好きな子ができたからといって、すぐに単騎特攻で一騎当千のようは真似をしようなんて思わない。自分の分をわきまえているつもりだから、外堀を埋めて確実に大丈夫だと思ってから告白をするつもりだ。
そういう意味では、クリスマスがだんだんと近づいている時期というのは、あまり告白に向いていないのではと考えてしまう。
だって、今、告白したらクリスマスに独りだと寂しいからとりあえず良さそうな相手をみつけて告白しましたと思われるかもしれない。
「いいんだよ。俺は俺のペースで上手くやるからさ」
「ふーん、そんなに悠長にしてると大久保さんを他の奴に取られても知らんぞ。ところで、陽は大久保さん以外には気になる女子はいないのか。例えば隣のクラスの夜見さんとかはどうだ」
隣のクラスの夜見さんのことはもちろん知っている。おそらく同じ学年で知らない人はいないんじゃないかと思う。俺も入学して初めて廊下ですれ違った時は可愛いというか綺麗というか、とにかくこんな子がいるんだと驚いた。
手入れの行き届いたさらさらの銀髪にぱっちりとしたアーモンドアイ、少し小ぶりな口に桜色の唇。容姿だけでなくただ廊下を歩いているだけなのに凛とした雰囲気を纏っていて彼女周りだけが別の空気に包まれているように見えた。
当たり前であるが夜見さんはとてもモテた。次から次へと告白する人が絶えないけど誰もOKをもらえないという話を聞いた。イケメンであろうが、金持ちであろうが、スポーツマンだろうが、勉強ができようがダメで、これらの要素を複数持っていてもダメということで誰なら成功するかという賭けが成立しないと勝又が嘆いていた。
「お前、それ本気で言ってる? 夜見さんは次元が違い過ぎるって」
「次元が違うってどういう意味だ?」
「そりゃ、あれだけ綺麗だし、性格はクラスが違うからあまりわからないけど、あれだけ告白を断っているのに悪く言うやつがいないってことは悪くないはずだ。勉強だって成績上位者で張り出されるくらいできるだろ。なんか素敵過ぎて住む世界が違うって感じじゃん。俺如きが好きになるとかおこがましい気がするな」
「お前自己評価低いな。じゃあ、大久保さんは自分と釣り合いそうだから好きってことか?」
よくわからないけど、今日の勝又はいつにも増して大久保さんのことに突っ込んでくるな。もしかして、俺の話を参考に本当に暮方さんにアタックするつもりだろうか。
「そういうわけじゃないな。夜見さんの場合は素敵過ぎて俺の中では高嶺の花の人気アイドルや人気女優みたいな感じだな。大久保さんは同じクラスにいて普通に好きになったって感じ。大久保さんだってクラスではけっこうイケてるグループだから俺と大久保さんだってつり合いは取れていない気がするな」
そうこれは妥協とかじゃない。これを妥協だというなら世の中のほとんどのカップルや夫婦が妥協で付き合って、妥協で結婚していることになる。
俺にとって夜見さんは手の届かない一種の憧れのようだと思う。
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次回から再び夜見さん視点の許嫁選定会議に戻ります。
次回更新は……、ごめんなさい。只今仕事が残業時間100時間を超えるかもしれないような状況なので書けていません。不定期の更新にしたいと思います。
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