第60話 追加調査(前編)

「月ヶ瀬さんの言うとおり、娘は東雲君と同じ学校に通っていますが彼の方から声をかけるということはなかったようです。これは親バカな発言ではありますが、娘は非常にできた子です。見た目は私に似ることなく妻に似て綺麗ですし、優しく気立てもいい子だと思っています。学校でも決してモテないわけでもないようなので、東雲君から全くと言っていいほど声をかけられないことにいささかの疑問を持ちまして、追加の調査を依頼したところです。これからその結果をお見せしたいと思います」


 お父さんが事務局の人に二言三言伝えると会議室にある大型モニターの電源が入れられ、パソコンのデスクトップ画面が映し出された。


「これまでの東雲君への調査は彼に直接話を聞くということを行わないで進めており、あくまで普段の彼の行動や友人関係、過去の恋愛傾向等から結果を出しています。これは、我々の行動が表立って知られないように距離をとった結果なのですが、これではまだ交友関係の狭い高校生である彼の本質を捉えるには十分ではないと考え追加の調査をしました。調査方法はこちらが彼の友人である勝又暁に姿を変えてカフェに呼んで、そこで話を聞くというものです。東雲君にとって一番近い同性の友人である勝又君なら東雲君の本音に近づけるかもしれないと考えたところです。これからお見せする映像はその時の様子を小型のカメラで記録したものになります」


 ◆【陽君視点】


 東京の冬というのは俺の地元に比べて天気のいい日が多い気がする。俺の地元なんて冬になればたいていが雨か雪か曇りで真っ青な青空の日が連日のように続いていた記憶はない。


 でも、俺の気分はこの青空のように澄み渡り晴れやかなものではない。


 その理由の一つはクラスメイトの大久保さんとなかなか恋仲になれないことだ。


 大久保さんとはお互いに歴史の話が好きだったりして話すことがあったり、学校の行事で同じ担当になったりしたことがきっかけで好きになっていった。


 俺はクラスの中では決して目立つタイプではない。それに対して大久保さんは派手とはいわないものの陽キャといわれるようなグループに属している。できる限り積極的に話そうとは思っているけど、過度に接近しては変に警戒されてしまい気持ち悪がられるかもしれないからその塩梅が難しい。


 友人の勝又には俺の遅々として進まない様子を見ながらいつまで外堀を埋めているんだと言われる始末だけど、下手を打ってすべてを壊すよりはゆっくりでも確実に前進した方がいい。もしかしたら、そのうち大久保さんの方が俺の気持ちに気づいてあっちから距離を詰めてきてくれるかもしれない。


 そして、気持ちが晴れないもう一つの理由はもうすぐ期末テストがあるからだ。


 一応、成績優秀ということで学費等が免除されている奨学生の身であるので、ある程度の結果を残さないといけない。勉強が嫌いというわけではないが、それなりにプレッシャーを感じながらテストに臨んでいる。


 いつもなら授業が終わればそそくさと家路について大風が吹けば飛んでいきそうな大沼荘で一人寂しく勉学に励むところであるが、今日は勝又が駅前のカフェの割引券クーポンがあるからそれを使って一緒に勉強しないかと誘われた。一緒に勉強するといっても成績が着水直前の人力飛行機みたいな動きをしている勝又との勉強なので教わるというよりは教えながら知識に抜けがないかの確認になると思う。


 駅前のカフェに着くとなるべく静かそうな席を選んで早速勉強を始める。


 勝又も問題集とノートを広げて勉強を始めたのだけど、驚いたことにすらすらと解いている。導入の基本問題だけでなく、応用問題もすらすらとペンが止まることなく解答している。夏休み前に俺に泣きついて来て何とか赤点を回避した時とは大違いだ。


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 とっても面倒くさいモードの陽君です。

 次回更新は2月2日午前6時の予定です。

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