第59話 許嫁選定会議Ⅲ(夜見さん視点)

「――星重郎はどう思う」

「月ケ瀬さんが言うように東雲君に短期的に彼女ができるといったことでは根本的な御利益の達成にはなっていないと思います。我々が考えなければいけないのは、もっと長期的視点で彼がどうすれば幸せになれるのかということでしょう。今回、許嫁を辞退された候補者の家については許嫁を出さなくとも様々な形でご支援いただければいいのではないかと思うところです」


 身体が大きくて強面なお父さんが丁寧な感じで話すと月ヶ瀬のオジサンとは別の意味で圧がかかってくる。


「星重郎の言うとおりで、許嫁として東雲君のところに行くだけじゃなくて、みんなでバックアップして、二人上手くいくようにすればいいだけだよぉ。許嫁を出した家のみがすこぶるいい働きをしたとは私は思わないからそういうことまで気にしなくていいよぉ」


 やはり、うーたんはその辺りまで見通していた。許嫁を辞退した家からすれば、うーたんに夜見家と月ヶ瀬家ばかりが頑張っている、身を削っているというように見えるかもしれない。そうなってくると自分たちの評価が下がるかもしれないから許嫁の事業自体を潰しにきたようだ。


 まさに魑魅魍魎の世界だろうか。辞退したから問題ないと思っていたのにそんな手に出るとは思わなかった。


「さてとぉ、もう一度仕切り直しだねぇ。許嫁候補の中でさらに手を上げてくれたのは二人だけ。資料だけを見るとどちらも甲乙つけがたいよぉ」


 うーたんは左右の手それぞれにうちと月ヶ瀬家の資料を持ってうーんと唸りながら地面に着かない足をバタバタとさせている。


 うーたんから次にどんなポイントで話が切り出されるのだろうと思っていたら、それより先に月ケ瀬のオジサンが仕掛けてきた。


「さっきからちょっと気になったんだけど、星重郎のところ美月ちゃんは東雲君と同じ学校なんだね。高校にもなれば生徒の数もそれなりに多いだろうけど、今までに東雲君から声を掛けられたりすることはなかったのかい」


 くっ、やはり、ここを突いてきた。うちは陽君と同じ学校に通うということで、陽君から声を掛けられれば御利益の達成前にその効果を止めて付き合える可能性があった。しかし、今の状況のように声を掛けられず、他に好きな子がいるという状況では陽君から見てうちが魅力的に見えていないということになってしまう。


「それは入学当初から今後、東雲君が御利益の対象になる可能性があるということで許嫁が決まる前からうちから彼に接触するのは出過ぎた真似というもんやからあえて距離を取るようにしてました」


 これで月ヶ瀬のオジサンが剣を降ろしてくれるかと思っていたけど、そう甘くはなく追撃が飛んできた。


「別におじさんは美月ちゃんが魅力的ではないとか言うわけではないけど、美月ちゃんが東雲君のタイプの子ならこの大久保さんという子じゃなくて美月ちゃんにアプローチをするんじゃないかな。今の状況からすれば、御利益の発動は東雲君が大久保さんに告白をして断られるか、付合ったけれども振られた後ということになるよね。そうなった時に彼の知っている女の子の中から許嫁として美月ちゃんを送り出すというのはどうなんだろ」


 …………あかん。月ヶ瀬のオジサンにする反論がすぐに浮かんできぃへん。


 月ヶ瀬のオジサンの言うとおり、今の陽君にとってはうちよりも大久保さんの方が魅力的に見えてるから大久保さんのことが好きなのだろう。すでに天秤にかけられてふるい落とされたうちが現れても陽君は嬉しいなんて思わないんじゃないだろうか。


 受けの一手がわからず気持ちもどんどん萎んでいくのがわかった。


 どうすることもできず隣に座っているお父さんの方を見上げると、お父さんもうちの方をみていたようで目が合った。すると、お父さんは小さく鼻でフッと息を吐くと月ヶ瀬のオジサンの方を向いた。


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 魑魅魍魎が跋扈する会議はまだ続きます。

 次回更新は2月1日午前6時の予定です。

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