第58話 許嫁選定会議Ⅱ(夜見さん視点)

「――それじゃあ、次は美月の番ね」

「は、はい。この度は許嫁の候補に選んでいただきありがとうございます――」


 所謂、志望動機じゃないけど、許嫁候補に選ばれてどう思うとか、選ばれたい気持ちはあるのかというような問い掛けは会議の中であるはずだと思って事前に何度も考えていた。だからここは迷いなく自分の気持ちを言えばいい。


「――うちは五千日達成の折には是非とも許嫁として東雲さんの元に行きたいと思てます」

「わかったよぉ。美月は行きたいってことだねぇ。あとの家は候補者が来てないけどどうなのかな」


 うーたんはこのあと月ヶ瀬以外の家に話を聞いた。うちの思っていたとおりこの二つの家は許嫁を辞退したいということだった。


「あとは、月ヶ瀬のところだけだねぇ。月ヶ瀬はどうなの」


 月ヶ瀬のオジサンはそれまで眉間に皺を寄せながら瞑っていた目をゆっくりと開くと一度姿勢を正してから話した。


「まず、最初に言っておきたいのはこの許嫁の制度が今の時代に合っていないということ。こうやって五つの家が候補に挙がっていて、許嫁になりたいというのが星重郎のところだけ。過去の事例が多いわけではないが、これでは昨今制度として成り立たなくなるのは明々白々。ただ、こうなるであろうことが予想できたにもかかわらず今までこのことを問題とせず、制度の改正をしなかった我々にも大いに責がある。月ヶ瀬家としてはこの難局を打破するために最大限の協力を惜しまない。したがって、候補に挙がっている我が娘には東雲君の許嫁として是非頑張ってもらいたいと考えています」


 許嫁の件を辞退するかしないかだけを答えればいいのにそこまでの前置きが長いと思って聞いていた。


 辞退しなかったのはうちと月ヶ瀬家だけ。先ほどの資料の説明の時に月ヶ瀬家の候補者についても説明があったけど、気立てが良くて男の子受けの良さそうなメインヒロイン系の子だなという印象を受けた。


「そうだよねぇ。恋の応援御利益の方はいいにしても許嫁の御利益については今後改正を検討しないといけないよね」


 うーたんが顎に手を当てながらむにむにと顎を揉んでいると、さっき許嫁の辞退を申し出た家のお父さんから意見が出た。


「どうでしょう。この際、今からでも東雲君への許嫁派遣をやめて、彼が今、気があるという女の子への恋を最大限応援するというのは。その方が、許嫁を出す家だけでなく、我々も大いに協力ができるのではと思うのですが」


 ちょっ、急に何言い出す。ここまできて自分の家が辞退したからって、許嫁をなしにして、大久保さんとの恋を応援するなんて。


 この意見に他の辞退した家までが加勢しだしたらまずい。数からいえばあっちの勢力は過半数や。


「それはダメだろ――」


 うちが何か反論しなければと頭の回転数を上げ始めた時、月ヶ瀬のオジサンがうちよりも早く動いた。


「――恋の応援をして、東雲君と彼が現在好意を持っている子をくっつけることはできるかもしれないが、彼女の調査内容からすると彼女はそこまで東雲君に好意を抱いていない。こういう場合はくっつけても交際が長続きしないことが多い。そうなると、参拝者である真司郎さんは裏切られたという気持ちになってしまう。最終的に我々に対する信仰心への影響も大いにあると考えられる。既存のルールを変えてまでする割にデメリットが大きすぎると思うね」


 きっと月ヶ瀬家ともなればこういう場には慣れているのだろう。あっちが数で押し切ってこようとする前に芽を摘んでぴしゃりと封じる。


 味方でいるうちはええけど……、敵に回すと嫌やな。


 ― ― ― ― ― ―

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 魑魅魍魎が跋扈する会議はまだ続きます。

 次回更新は1月31日午前6時の予定です。

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