第57話 許嫁選定会議Ⅰ(夜見さん視点)
会議が催されるのは市内にある某神社の横にある会館の一室だ。
部屋に入るとすでに三組の家族が来ていて一組は候補者であろううちと歳の近そうな子が両親と一緒に来ていたかが、もう二組は両親しか来ていないようだ。どの家族もその表情だけを見ると晴れやかというよりは神妙な面持ちという雰囲気だ。こちらの家族は許嫁として娘を派遣したくないという家族だろうか。
お父さんはどちらの家族とも知り合いのようで簡単に挨拶を交わしている。うちもお父さんの後ろについて作り笑顔を浮かべながらどうもという感じで挨拶だけを簡単にした。
なんかこういうのって苦手や。
一通り挨拶をしたところでお父さんに誘導された席に二人で並んで座ろうとしたそのタイミングで部屋にでっぷりとした布袋さんのようなオジサンが入ってきた。布袋オジサンはこちらの方を見るとお正月に親戚の家で数年ぶりに会った人に声をかけるように話し出した。
「おっ、星重郎のところはやっぱり美月ちゃんも来てるのか」
お父さんは立ち上がると布袋オジサンに一度頭下げてからいつもよりも丁寧な口調で話す。
「ええ、娘が来たいと言ったもので。月ヶ瀬さんのところはいらっしゃらない?」
「うちのは上のお姉ちゃん達と一緒に旅行に行っちまったよ。もし、許嫁になったら姉妹で旅行に行くこともなかなか難しいだろうからって。全く自分のことなのに困ったものだよ」
月ヶ瀬家といえば、うちだって知ってる神使の狐の世界では有名な名家だ。まさかそんな家までが候補者に入っているなんて思わなかった。お父さんが言っていた許嫁に乗り気な家族というのはおそらく月ヶ瀬家のことだろう。
そして、布袋オジサンこと月ヶ瀬のオジサンが席に着いて数分もしないうちに再びドアが開くと今度はネコミミが付いた黒いパーカーを着たうーたんが入って来た。
大人たち一同がさっと起立して礼をするが、そういう流れを知らないうちはワンテンポ遅れて礼をした。
こないな段取りや決まりごとは最初に教えといて欲しい。
うーたんは前にバスで会った時と同じようにそこだけ重力がないような軽い足取りでぴょんと一番上座の椅子に飛ぶようにして座って、参加者を見渡しながら話した。
「はーい、みんな楽にしてぇ。今日は長丁場になるかもしれないから今から力入れているともたないかもよぉ」
うーたんはいつもと同じような甘い語り口だけど、表情はバスで会った時とは違ってきりっとした仕事モードという様子だ。促されたことでみんなが席に着くのだけどやっぱりうちともう一人の女の子だけが少しテンポが遅れている。
そこからは事務局の人による今回の五千日連続参拝による許嫁の御利益についての説明や陽君の調査結果、そこからどんな相手なら相性が良さそうかなどについての説明がされた。
淡々と事務的に説明している司会の人の様子を見ていて、もし、自分が陽君の立場で、この場にいたらと考えたら恥ずかしくて堪らないだろうなと思ってしまった。なんというか自分の裸をみんなに曝さているみたいだ。
「――これまでの経過と調査結果については以上になります」
「ありがと。さて、どうやって決めようかなぁ。……せっかく、候補者の子が来てくれているからちょっと話をきいてみようかなぁ。君たちはこれまでの調査からこちらが適任だと思って選んだだけ。ぶっちゃけ、君たちにその気がなくても選ばれちゃっているからやりたくないならそうだと言っていいよぉ」
うーたんは、会議に参加しているもう一人の子の方に手を向けて自分の気持ちを話して欲しいと促した。
うーたんはぶっちゃけとか言っているけど、ピラミッドの頂点にいる人が「やりたくないならそうだと言っていいよぉ」と言ったところで、そうは言いづらい雰囲気があると思う。当てられた子は少し俯きながら横にいる両親に背中を押されて立ち上がると拳をきゅっと握ってから口を開いた。
「こ、この度は御利益としての許嫁候補に選んでいただきありがとうございます。しかし、私には身に余るお役と考えます。まだまだ、半人前以下の私では東雲さんの許嫁として彼を幸せにすることができないので、大変申し訳ありませんが辞退させていただきたいと思います」
きっと、事前に家族で何を言うかということを考えて練習していたのだろう。最初こそ緊張しているように聞こえたが、後半はとてもさらさらとした口調だった。
「わかったよぉ。急に知らない人の許嫁って言われても難しいよねぇ――」
うーたんは腕組みをしながら目を瞑って首を縦にうんうんというように縦に振っている。そして、目を開けると今度はうちの方を向いて、うちの気持ちを話すように促した。
「――それじゃあ、次は君の番ね」
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なぜ、(前編)ではなくⅠかと言うと、まだ、会議編を書ききれていないからどのくらいになるかわからないのです。
次回更新は1月30日午前6時の予定です。
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