第55話 美月と茜(後編)【夜見さん視点】
「嫌ならそういう時くらいちゃんとボタン閉めたらええんちゃう」
「正論という刃で切らないで、私にもそれなりにポリシーがあるのよ。それよりさ、心苦しくてちょっと気分が下がっているなら、このあと
ニシシと目を細めた笑顔で誘ってくれたからうちも冗談めかして答えた。
「茜の家に行くのはええけど、それって、茜だけやのうてうちも一緒にデブになろうということ」
茜は入学した時からどういうわけか全然ギャルっぽくもない私に声を掛けてくれて友達になって、私が一人暮らしだと知ると、こうやって家によく招いてくれるようになった。
「はっ、巧妙に隠したはずなのにバレてる。だって、私一人だけよりも美月が一緒なら心置きなくたべられるじゃん」
「それは自分で自制して食べる量を気ぃ付けたらええだけな気ぃするんやけど」
「うぅぅ、美月が正論でいじめてくる。カロリーが高そうなやつばかり美月の皿にのせてやる」
靴を履き替えて二人で並んで歩く。帰宅部の生徒が帰った後なので学校から最寄り駅までの道に生徒はそれほど多くない。
「ねえ、美月、美月がいつも告白断っているのって、やっぱり好きな人がいるからなの」
茜は少しだけうちの方に顔を向けて聞いてきた。
茜の方からこういうことを聞いてくることは珍しい。
好きな人はいる。でも、そのことは言えない。
もし、茜に陽君のことを話してしまったら、茜のことだからきっとうちと陽君の仲を取り持とうと動くはずだ。そんなことをしてしまっては間接的ではあるけれど、うちの方から陽君へ接触をしようとしたことになってしまう。
「うちにはそないな人おらんよ。今は勉強したり一人暮らしもしてるさかい、せわしないからなかなかそっちまで気ぃ回らへんよ」
「本当? 美月が好きだって言えばたいていの男子ならすぐにOKしてくれると思うんだけどね」
好きだと言えたらどんなにいいだろう。いきなりそんなことを言えば、きっと陽君は戸惑ってしまうと思うけど言わずにはいられない。
「そないなもんやろか、茜の方こそどないなの」
これ以上うちのことについて聞かれても話せることはないので、茜の方にボールを渡すことにした。ボールを受取った茜は顔を上げて遠くの空を見るように言った。
「私はいるよ。好きな人」
「ほ、ほんま」
茜の答えは意外だった。今までそんな話を聞いたことがないというものあるけど、茜なら好きな人ができたら迷ったりしないでどんどんアタックをかける気がしたからだ。
「うん、ちょっと年上の人、アピールしているつもりなんだけど全然気付いてもらえないというか、あっちは私みたいなのが恋愛対象じゃないのか脈なしなんだけどね」
「年上って、先輩?」
「先輩っていうか、OBかな今は大学生。きっと、あっちからすると三歳とか四歳違うだけでだいぶ子供みたいに見えるみたいで、いっつも子ども扱いだから」
いつものニシシとした笑みを浮かべる茜とは違った顔がそこにあって、彼女が本気でその人のことを好きなんだと思った。
●
結局、茜の家ではお菓子だけでなく夕飯もいただいてしまった。茜の家族もうちが一人暮らしをしていることを知っているので、たまには大勢で食べるのもいいでしょということで甘えてしまった。
自分の家に帰り玄関扉を開けても部屋を照らすのは窓から差し込む外のぼんやりとした灯りだけ。人のいない部屋の空気は外ほどではないものの十分ひんやりとしたものだ。
暖房をつけてスマホを取り出し着信を確認すると珍しくお父さんからメッセージが届いていた。
― ― ― ― ― ―
連日、ブックマークや★★★評価★★★、応援をいただきありがとうございます。
勝又ぁぁぁーー
次回更新は1月28日午前6時の予定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます