第54話 美月と茜(前編)【夜見さん視点】


【許嫁派遣半年前・美月高校一年冬】


「ごめんなさい。お付き合いをすることはできません」


 西日に照らされる校舎の壁を背にして立っているクラスの男の子に好きだから付き合って欲しいと告白された。


 今日の放課後に残って時間を作って欲しいと言われた時からそういうことになるかもしれないと思って心の準備はしていた。でも、真剣な気持ちでいる相手の告白を断るというのはとても悪いことをしているような気持ちなる。


「それではうちは行きますね。気持ちに応えることできなくて本当にすいません」


 うちは深く一礼をしてからその場を後にした。


 告白されるのはこれが初めてではない。初めて告白されたのは中学の時だった。高校に進学してからはその回数がすごく増えたと思う。入学当初から同級生、先輩関係なく告白された。そして、大変申し訳ないと思いながらお断りをさせてもらっている。


 これは自慢などではなく事実としてそうであるというだけ。


 告白をする人が自分の中に秘めている大切な気持ちをまっすぐ伝えている姿をうちは羨ましいと思っていた。


 自分が好きな人に好きと伝えることができるなんて、なんてええんやろ。うちは自分の気持ちを伝えるどころか、話しかけることもできへん。


 高校で陽君と一緒になったけれどうーたんとの約束でうちからは彼に話しかけたり接触することを禁止されている。うちが陽君と付合うためには彼の方から話しかけてもらい、告白もされないといけない。


 あの柳通りでうちを見つけてくれた時のようにきっと高校でもうちのことを見つけて声を掛けてくれるに違いないと思っていたけど、現実はそんなに甘くなかった。


 陽君は私に声を掛けてくれないどころか、彼は同じクラスの大久保さんという子に気があるようだという情報が先日、鈴木さん経由でもたらされた。


 チェックメイトやと思た。うーたんの言うたとおりになってもうた。


 会いたかった人に声すらかけられない。彼に好きな人ができればそれを遠くから見てることしかできない。このまま陽君が大久保さんと付き合えば、許嫁派遣の御利益の発動は一時的に止められるが、もし、別れたり、陽君が告白して大久保さんに断られたりすると御利益発動となる。その時に自分が許嫁に選ばれていなければ、今度はその姿を目の前で見せられることになる。


 思てた以上に残酷やわ。


 下校するために昇降口まで来たところで、告白を断ったことの心苦しい気持ちと自分の今の苦しい状況とが重くのしかかり大きく息を吐いてしまった。


「美月、何か嫌なことでも言われたの」


 昇降口の柱に身体を預けた姿勢でいたのは茜だった。


「そないなことないよ。ただ、ちょっといつも断っていて心苦しいと思ったさかい」


 茜が言うように告白を断った時に稀に嫌なことを言ってくる人もいる。どうして俺じゃダメなのかとか、いつも告白を断ってお高く止まっているみたいなことだ。


 きっと相手からしたらこれだけうちのことを思っているのにどうしてわかってくれないのだろうという気持ちが強すぎてそういうことを言ってしまうのだろう。


 うちだって、陽君に告白して断られたら、どうしてうちじゃあかんのくらいのことは言ってしまう気がする。


「真面目で優等生だね。私なんか私の胸に視線を向けながら告白してきた奴にハイキック食らわせたくらいなのに」


 茜はうちよりもスタイルがいいし、ノリもいい。ギャルっぽいけど、もともとかなりのお嬢様な家柄らしく、小さい頃は今よりもずっと厳しく教育されていたようで、実はかなりしっかりしている。勉強だって遊んでいるようだけどしっかりとした成績だ。これはギャルの格好をしてもいいけど、勉強はちゃんとすると親と約束しているらしい。


 これだけの条件が揃えばモテないわけがない。学校でも所謂、陽キャと呼ばれるような人が茜にバンバン告白しているという時期があった。でも、茜も今までOKして付き合っているという話は聞いたことがない。もちろん、中学とかの時のことはわからないけど。


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 次回更新は1月27日午前6時の予定です。

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