第52話 劇的ビフォーアフター【中編】

 送られてきた画面は俺よりも三段階くらいはかっこいいと思われるカットモデルの写真が写っていた。その髪型は今の俺よりもだいぶ短めで、耳周りや襟足がすっきりしており、トップの方は自然な長さがあり、それがワックスで綺麗に流されている。奇をてらわないいたってスタンダードな髪型だ。


「こんなにイメチェンするのはちょっと勇気いるね。こんなに変わったら、みんながあいつは夜見さんがちょっと仲良くしてくれているから調子に乗ってるなんて思わないかな」

「陽さんはまだそないなこと気にしてはるんですか。大丈夫です」


 このことについては、夜見さんの言うとおりかもしれない。初日こそみんなから怨み・妬みの視線が飛んできていたが、今は砂糖さえ撒き散らさなければそんな視線が飛んでくることはほとんどない。まあ、あとは、体育のバスケで時々殺人パスが来るくらいだ。


「ほな、うちはあっちでゆっくりしてるさかい、かっこようなるの楽しみにしてます」


 そんなにハードルを上げても俺は超えることができないから潜って行くぞ。


 予約時間になるとすぐに席に案内されたのだけど、このお店は一つ一つの席がすべて半個室のようになっていて隣りの人の様子が見えないようになっている。完全にお上りさんのようになっている俺は「はへー」というように圧倒されていた。


 案内された席まで来ると、こちらをどうぞということで渡されたのは黒い不織布のガウンだ。


 えっ!? これを着るの。


 いつもなら服の上にてるてる坊主みたいになるケープを付けるだけだ。わざわざガウンまで着るなんて。俺の中のガウンのイメージはイケメンがシャワー上がりに羽織って、ソファーに座りながらお酒を飲んでいるってものだ。


 制服の上にガウンを着て椅子に座ると手際よくケープも付けられ、おしぼりまで出てきた。きっと慣れている人なら至れり尽くせりなのだろうが、慣れないこっちは緊張してしまってきょろきょろと周りを見てしまう。


「お客様、どうかされましたか?」


 後ろの様子も確認しようとして限界まで首を回したところで担当してくれる理容師さんと目が合ってしまった。俺を担当してくれるのは三十代の女性の理容師さんでスーツをぱりっと着こなしていて仕事のできる大人という感じだ。


「え、えっと、ちょっと肩が凝ったいたのでストレッチを……」

「あらあら、やっぱり、学生さんは勉強が大変なんですね。それにさっき待合にいたのは彼女さんですか? すごく可愛らしい方ですね」

「あ、ありがとうございます。俺が髪型とかそういうことに疎いので、どんなふうにしたらいいか彼女からもアドバイスをもらおうと思って」


 この場で夜見さんと俺の関係をいちいち説明すなんてことは面倒くさい以外の何ものでもないと思ったので彼女ということにした。もし、夜見さんが横にいたらきっと彼女だということを躊躇したと思うけど。


 髪を軽く櫛でかされながら「今日はどんな感じにしますか」と聞かれたので、スマホを取り出して、さっき夜見さんから送られて来た画像を見せた。


 理容師のお姉さんは画像を見ながら、俺とモデルの人とは髪のクセとかも違うから、この画像のイメージを俺に当てはめながら切ってくれるということだ。


 鏡の前にある棚には髪を切るのに必要な何種類もの鋏やヘアクリップを始めとする道具が銀色のトレーに綺麗に並べられていて、手術をするときの道具が並べられているみたいだなと思った。


「学校の校則とかで禁止されている髪型はありますか」


 我が智慶高校はけっこう校則が緩い。緩いけど派手な格好をしているのは暮方さんを含めてかなり少数派だ。一応、進学校なので校則が緩くてもほとんどの生徒はそういうことに時間をかけず、勉強や部活動に勤しんでいる。


「承知しました。それでは、派手になり過ぎない程度に上手くやりましょう」


 ヘアクリップで髪を止められて、鋏が入っていく。


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 ちなみにこのお店のモデルは普段私が通っているお店です。

 次回更新は1月25日午前6時の予定です。

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