第51話 劇的ビフォーアフター【前編】

 翌日、学校に着くと俺はすぐに暮方さんのところに向かい、昨日の体育後の片付けの件で放課後に大変なことになったと抗議をした。すると、暮方さんはごめん、ごめんとは言いつつもいつもと同じようにニヤニヤとした表情を崩さないでいた。


「どうやら、美月は東雲君にぞっこんだね。私はそんなに香水付けていないのにそれを嗅ぎ当てるんだから。それに放課後も二人でくんくんいちゃいちゃしちゃうなんて。朝からご馳走様です」


 暮方さんの中では俺と夜見さんがウフフでキャハハな感じでいちゃいちゃしていたと思っているかもしれなけど、決して、そんなことはなったからね。夜見さんのしっぽを使ったあの猛攻といったら……、思い出しただけでもぶるっとしてしまう。


 あと、夜見さん曰く、暮方さんの使っている香水はなかなか高級なもので他に使っている子がいないからすぐにわかったということだ。暮方さんは見た目はギャルだけど、かなりのお嬢様って話は聞いたことがあったが、どうやら本当のようだ。


「もう、朝からそないにからかわんといて、うちは別にいちゃいちゃなんて……、ねえ、陽さん」


 恥ずかしさをかみ殺すように言う夜見さんだけど、俺に同意を求めたときの目はちょっと怖い気がした。


 昨日の夜見さんの教育的指導の項目として、俺は隙が多すぎるということだ。そういわれても俺としては対応に困る。昨日の暮方さんとのことだって完全に不意を突かれただけだし、浮気と呼べるものでもない。


「そうだね。暮方さんの行い次第で俺の寿命が縮むかもしれないから、からかわないでもらえると助かる」

「東雲君、すっかり美月に躾けられてるね。それじゃ、ちょっとしたお詫びに東雲君がイケてる髪型になれるようにいいお店探してあげるよ」


 ねえ、暮方さん、あなた全然わかってないでしょ。むしろ、今のこの状況を楽しんでいるくらいでしょ。


 俺の思いとは裏腹に暮方さんは夜見さんと一緒に俺の髪形や散髪をするお店についての会議を始めた。


 もちろん、当事者である俺の意見は一切入り込む余地がないこともここに追記しておく。


 ●


「ねえ、やっぱり、夜見さんも一緒に行くの?」

「ダメですか? でも、陽さんがどないな髪型にしたらええかわからんって言いはるから一緒に行った方がええかなと」


 夜見さんと暮方さんの秘密会議により俺の散髪計画が練られて、それが今日実行されようとしている。


 いったいどんなカリスマ美容師が出てくるのかわからないけど、美容師さんは魔法使いではないので、ものの数十分で俺をイケメンにすることは不可能である。というより、どんな髪型にしますかと聞かれてもこんな風にしてくださいという案を持っていないので、前回切った時から伸びた分だけ切ってくださいというのが関の山だ。


 そういう意味では夜見さんが一緒に来てくれることは嬉しいのだが、正直、髪を切りに行くのに同伴者がいるって結構恥ずかしくない? 親と一緒に理髪店に行ったのだって小学生までだったと思う。


 俺は学校の近くか駅前の繁華街にある美容室に行くものだとばかり思っていたけど、暮方さんが選んだお店は某百貨店に入っているだった。理髪店っていうと近所のあるような昔ながらのお店で、待合いの場所には年季の入った漫画が置かれているようなお店しか知らない俺にとってこのお店は全く次元が違うものだった。


 明らかに高級そうな店構えで、店内は濃い木目調の作りになっていて、ジャズが流れる落ち着いた雰囲気の店だ。


 ここって、絶対に俺のような学生が来るところじゃないよな。


 ちなみにこのお店は暮方さんの知り合いの人がやっているということで、今回は特別価格でやってくれるらしい。


 待合の椅子に座っている時にさすがに夜見さんもこのお店の雰囲気は軽い感じで同伴するのはどうだろうと思ったらしく、俺のスマホにこんな感じにカットしてもらったらええよとカットモデル画像を送って、自分は同じフロアのスタバでお茶でもして待っているということになった。


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 とりあえず、カクヨムコンの応募規定の10万字は達成。苦しいながらも毎日更新できたのは皆様のおかげです。

 次回更新は1月24日午前6時の予定です。

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