第45話 大久保さんの迷走(再び陽君視点)

 夜見さんと暮方さんと三人で食べるお昼ご飯は新鮮だった。いつもなら勝又と食べることがほとんどだから、まず、異性という存在がいない。さらに暮方さんのようなギャルで陽キャな人とご飯を食べるなんてことはなかったから、彼女のテンションにどう対応していいかわからずきっと挙動不審だったと思う。


 暮方さんはそんな緊張しなくていいしなんて言うけれど、緊張はするし、暮方さんの方をあまり見ながら話してしまうとその無防備なたわわに目がいってしまいそうで……。


 もし、そこに目が釘付けになってしまうと帰ってから夜見さんに怒られるだろうから気が気じゃない。


 高難易度の昼食を済ませた後、お手洗いから教室に戻る途中で制服の裾を後ろから急に引っ張られた。


「ねえ、ちょっと、学校でもあんなにいちゃいちゃしてどういうつもり」


 振向くと、眉間に皺をよせ眉頭がきゅっとセンターに寄った大久保さんが俺の制服の裾を掴んでいた。


 不意に近い距離にいる元カノに悪い意味でドキリとしたが、昨日のように動悸が激しくなったり気分が悪くなったりするようなことはない。昨日は全く身構えることなくあの二人に会ってしまって動揺したけど、今日は最初からそれなりに心の準備をしてから登校している。


「別にそんないちゃいちゃなんかしているつもりはないけど。一緒にご飯食べていたのも暮方さんが誘ってくれたからだし。お互いにあーんとかで食べさせあっているわけでもないから普通だと思うけど」


「本当に普通だと思っているの。さっきもご飯食べながら時々目が合うと互いにちょっと恥ずかしそうな表情してたりするから完全に二人の世界って感じだったけど」


 大久保さんが指摘したことは間違っていない。お弁当を食べている時に夜見さんと目が合うとどういう表情をしていいかわからなくて、はにかんだ顔でお互いにやり過ごしていた。暮方さんはそんな俺たちを見ながらニヤニヤして、今日は卵焼きが甘いわとか言ってたけど。


「確かにそうかもしれないけど、別に大久保さんにはもう関係ないでしょ。もう、俺たちは付き合ってるわけじゃないし。俺が大久保さん以外の女の子と仲良くしたって……、それに大久保さんは山吹と付き合っているならそれでいいじゃないか」


 わざと意識して少し冷たい言い方をした。


 どうして、別れ話を切り出した大久保さんの方からこんなふうに声を掛けられるのだろうと思った。俺よりもいい男を見つけてそっちに乗換えたのなら俺のことなんか気にしないで新しい彼氏だけを見ていればいいじゃないか。


「それはそうだけど……、でも、だって、陽が仲良くなってから数日であんなに夜見さんと距離が近いのっておかしいと思って、夜見さんに何か弱みでも握られて脅されているんじゃないかって――」

「そんなわけないだろ。変なこと言わないでくれ。夜見さんがそんなことするわけないじゃないか」


 さすがにそこまで言われると腹が立ってきて思わず語気が強くなってしまう。おそらく、大久保さんと付き合う前も付き合ってからもこんな感じで話したことはなかったから、驚いた表情でこちらの方を見返した。


「どうしちゃったのいつもの陽じゃないよ。いつもはもっと優しいのに……、やっぱり、夜見さんと――」

「もう、最低限の会話しかしないんだろ。俺のことはほっといてくれ」


 それだけを言い放って、大久保さんを振り払うようにして教室へと向かった。


 あんな言葉で別れておいて今さらどうして俺を気遣うようなことを言うのか全くもって理解できないし、考えたくもなかった。


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 次回は体育の授業

 次回更新は1月18日午前6時の予定です。

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