第44話 大久保夕は語りたい(後編)大久保さん視点

 そして、五月の連休が近づいてきたある日、休憩時間に山吹から呼び出された私は、私が陽と付き合っていることを最近知ったと言われた。


 一気に血の気が引くのと同時に心臓が激しく暴れ出した。


 終わったと思った。山吹からしたら二股をかけられているのだから。それも自分は彼氏ではなく浮気相手の方だ。


 どうしよう、このことがみんなの知れるところとなったら、もう、私は終わりだ。


 俯いたまま何も答えないでいる私に彼が掛けた言葉は全くの想定外のものだった。


「大久保さんが東雲のどういうところを好きかは俺にはわからないけど、俺は東雲よりも楽しくいられるように頑張るから俺と付き合って欲しい」


 まさかの二度目の告白だった。


 私は二度目の告白を受けて、陽との関係を終わらすことを決めた。別に陽のことを嫌いになったわけではない。


 陽はなかなか気持ちを素直に言ってくれない。でも、山吹はそうではなさそうなので私は自分が楽な方を選んだ。


 嫌いになったわけではないから面と向かって別れ話をする勇気がなくて電話で別れを切り出した。別れの言葉は後腐れがないようにはっきりと伝えた。


 後日、陽から面と向かって復縁を迫られた時に拒否できる自信がなかったから、別れる理由も陽が傷つくようなきつい言葉にした。そうすれば、今後陽が私に近づくことはないだろうと考えた。


 そうして、陽に別れを告げた日に山吹に告白の返事のOKをして、付き合い始めたのだが、まさかその翌日のデートで陽にばったり会うなんて思ってもみなかった。それも、どういうわけか陽は夜見さんと一緒にいる。


 夜見さんは人当たりもいいし、勉強もできる。さらに同性から見てもすごく可愛い。もちろん彼女がモテることは知っていたし、告白をいつも断っているという話も聞いていた。そんな夜見さんがどうして陽と一緒に……。二人は恋人ではないということだけど、しっかりと手をつないでいたりして傍から見れば恋人同士に見える。


 夜見さんの話だと二人は私と陽が別れてすぐに仲良くなったようだ。そんなことがあるのだろうか。あまりにタイミングが良すぎる。もしかして、陽は私と付き合っている時から夜見さんとも仲良くしていたのだろうか。


 その可能について、少し考えたけど、陽の性格からして二人の女の子と同時に付合えるほど器用ではないと思う。ということは、夜見さんはずっと陽のことを狙っていて、私と陽が別れるのをずっと待っていたのだろうか。そして、別れたから夜見さんが一気にアプローチを掛けたということなのか。


 それにしたって、進展が早すぎる気がする。もしかしたら、陽は夜見さんに何か弱みでも握られているのではないだろうか。


 さっきだって、陽のためにしおらしくお弁当を作ってきていた。どんなお弁当なのかと気になって一瞬だけど見てしまった。混ぜご飯だけでなく、どのおかずも手作りで美味しそうに作ってある。


 そんなことを考えていてやっと自分が嫉妬していることに気付いた。


 自分が陽と付き合っている時に別の男子と遊びに行ったりしたことは世間一般的に浮気になるのだろう。でも、彼とはエッチやキスだってしていない。そこは最低限の操を立てたつもりだ。


 陽と別れたのだって、私だけが悪いわけではない。陽は付き合っていても私の手を引いてぐいぐいリードしてくれることはあまりなかったし、名前で呼んでもくれない。そんな時に陽とは違うタイプの人が現れてちょっとそっちに気が向いてしまっただけだ。


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 連日、ブックマークや★★★レビュー★★★、応援をいただきありがとうございます。

 連載開始から一月半ですが、ここにきて一日当たり過去最高PVを記録しました。ありがとうございます。これからも細くな長くやっていきます。

 次回、大久保さん×陽君です。

 次回更新は1月17日午前6時の予定です。

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