第43話 大久保夕は語りたい(前編)大久保さん視点

 私が陽の好意に気付いたのは高校一年生の夏休みが終わった頃だったと思う。


 入学以来、陽とは同じクラスで、時折何でもない会話をすることはあった。


 クラスの中でも特に目立つ存在ではなかった。勉強は得意のようなのでテスト前には勉強を教えてもらうこともあった。


 陽の話し方や仕草、視線から私に気があるだろうことは何となく察していたが、告白はおろか、遊びに誘われることもなかった。


 私は彼のことを特別好きでも嫌いでもなかったが、陽から受ける好意を嫌だとは思わなかった。


 年が明けてしばらくした頃に陽から話があると呼び出された。


 もしかしてと思ったけど、その思いのとおりで陽から告白された。今まで異性から告白などされたことはなかった。陽のことをどう思っているかと問われれば好きだと思う。


 心から大好きというわけではなかったけれど、それは付き合っていくなかで育まれる気持ちだと思っていた。


 付き合いだしてからも陽は奥手なままだった。手を繋いでくれたりしないどころか名前で呼んでもくれずいつも苗字にさん付けだ。


 それは私のことを壊れやすいガラス細工を扱うかのように大事にしているという様子だった。


 でも、私としてはそれはちょっと物足りないものだった。別にテレビドラマのような劇的な恋がしたいというわけではないが、もう少し恋人らしいことがあってもいいのではと思うこともあった。


 そんな時に同じクラスの山吹怜央から遊びに誘われた。もちろん二人きりではなかったし、他のクラスメイトも一緒ということだったから特に問題はないと思った。


 私と陽が付き合っていることは、陽の希望から秘密のこととしていたから山吹が私を誘ったのも仕方がない。


 結果として、それはダブルデートのようなものだった。そのことに気付いた時に困惑はしたが、ここでいきなり帰っては翌日からの学校生活でぎくしゃくするかもしれないと思ってそのまま遊ぶことにした。


 山吹は遊ぶのに慣れているというよりもエスコートに慣れているという様子で私に接してくれた。次に何をするかということもすぐに提案してくれて、即決していくので一緒にいて陽よりも楽だと思った。


 その日の帰り際に彼から告白された。もちろんOKしなかった。でも、お断りもしなかった。答えを保留にしてしまった。


 山吹からはその後もアプローチが続いた。陽とは違い気持ちを率直に伝えてくれるし、デートプランもいつも彼が考えてくれた。


 流行りのものや最新のアイテムに敏感でカフェで新発売される新作の商品があるからと誘われた。


 私が苦手かなと思うジャンルの映画もこの作品は他と違うからきっと楽しめると誘ってくれた。


 春休みには最初にダブルデートになった時のメンバーでテーマパークに行こうという話になり断り切れずに行くことになった。


 彼からの告白の返事はまだ保留にしたままだった。私の中で陽よりも彼の存在の方が次第に大きくなるのに比例して、罪悪感も大きくなっていった。それでも陽との関係をずるずると続けていた。


 そして、五月の連休が近づいて来たある日、休憩時間に呼び出された私は彼から、私が陽と付き合っていることを最近知ったと言われた。


 ― ― ― ― ― ―

 連日、ブックマークや★★★レビュー★★★、応援をいただきありがとうございます。

 これから毎日の文字数が減りそうです。ごめんなさい。単純に仕事が繁忙期に入ってきて作品に割ける時間が減っているからです。

 次回更新は1月16日午前6時の予定です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る