第40話 情報収集
「おはようさんです。陽さん」
突如、特徴的な甲高い声とともに俺の机の前に現れたのは今時珍しいきっちり整えられたオールバックにちょろ毛、金属フレームのメガネがきらりと光るエロ又こと
勝又は俺の学校での唯一の友人といっていい存在で、一年の時から同じクラスだ。
なぜ、エロ又と呼ばれているかというと、そのまま意味で彼がエロを原動力・エネルギーとして生きているような人間だからだ。古書店を営む彼の実家にはファンタスティック作品も溢れていて、その中で育ったためか、エロに対する異常なる執着心がある。
例えば、学校にある体操着や普段使わない資料集などを入れておく鍵付きの個人ロッカーがあるのだが、勝又のロッカーの中には男子生徒諸君の各種ツボを押さえたファンタスティック作品が詰め込まれており、彼はそれを格安でレンタル・販売しているという悪い奴なのだ。ただ、一部の男子生徒にとっては勝又ロッカーは聖なる地として崇められているらしい。
ちなみに俺も勝又ロッカーのお世話になっていて、俺が引越しの時に隠したファンタスティック作品は勝又から購入したものだ。
そして、もう一つ厄介なのが奴が歩くタブロイド紙と呼ばれるところだ。学校中のあらゆる噂やゴシップに精通しており、カースト上位の生徒でさえ、勝又砲呼ばれるゴシップ情報を恐れている。
そんな勝又が朝から夜見さんのまねをしながら声を掛けて来たってことは、すでに昨日二人で買い物に行ったことが知られているのか。それとも一緒に住んでいるところまで知られているのか。
「なんだよ。その気持ち悪い話し方」
「そんな釣れない言い方しなくたっていいだろ。夜見さんと仲良く登校してるみたいだったから」
にやにやとした笑みを浮かべながら話しているエロ又がどこまでこっちの情報を持っているかわからない状況では、下手に話し過ぎない方が得策だろう。
そこで俺は夜見さんには悪いがちょっとした嘘をつくことにした。これで奴がどんな反応をするかでどこまで情報を持っているか探りたい。
「途中で一緒になったから同じタイミングで教室に入っただけだ」
鞄中身をいくらか机の中に移しながらエロ又の顔色を変化を窺っていると、奴はメガネをくいっと上げてから、すでに調べはついているんだよというような刑事さんみたいに話し出した。
「お前さん、本当にそれだけか。こっちには昨日、お前さんと夜見さんが駅前のル●ネで一緒にご飯を食べていたって情報があるんだけどな。大久保さんに振られた翌日にもう別の女の子といちゃいちゃするなんざいい身分じゃねえか」
なるほど、そう来たか。
一緒にご飯を食べている方の情報でよかった。最初に行ったインテリアショップの方がお揃いのものを買っていたりしたから、そっちを見られていた方が面倒くさいと考えていた。さしずめ、山吹が情報源ってところだろう。
「おっと、流石だな勝又砲は。今、勝又が話した通りだよ。大久保さんに振られて、そのあとから夜見さんと仲良くなって、昨日は一緒に出掛けてお昼も食べたんだ」
「当り前のことのようにさらっと言いやがって、本当に本当にそうなのか! 俺はこの情報を聞いた時にまさかそんなって思っていたから、ガセだと信じていたかったのに。大久保さんに振られることはあってもお前さんが夜見さんと仲良くなるなんて」
「お前、俺のことをしれっとディスるなよ。まだ、大久保さんに振られたことはそれなりに引きずってんだから」
あんな形の失恋の痛みが一日二日で癒えるわけがない。さっき、教室に入った時だって大久保さんの姿が見えて胃がきりっと痛んだくらいだ。
勝又にはあんまり騒がず声のボリュームをもっと落とせとも伝えた。俺と夜見さんの関係はそこまで大ぴらにするつもりはない。
「なになに、今は二人で愛を育んでる途中なのでそっと見守ってください的なコメントは! どうして、俺と陽はセットでいることが多いのに陽の方にだけ次々に彼女ができるんだ。おかしい、世の中不公平だ。陽、どうして、お前さんだけがそんなにいい思いばかりしているのか、これはきちんと詳細を俺に話す義務があると思わないか」
「それについては一ミリも思わん。それにいい思いばかりをしているわけじゃないからな。ところで、大久保さんに振られたって話はそんなに広まっているのか」
このあたりの情報はある程度把握しておきたい。場合によっては夜見さんが俺を大久保さんから略奪したなんて思うような人が出てくるかもしれないからだ。
「うーん、もともと陽と大久保さんが付き合っていたことは、おそらく大久保さんに近い女子の一部と男子では俺以外はほとんど知らないんじゃないか。それでもって、彼氏と別れようかなって話を先週の時点で大久保さんは友達には話していたみたいだな。そんなことより、今はお前さんと夜見さんのことの方が遥にホットでバズることだからそっちの方が大事だ」
暮方さんは比較的大久保さんとも仲が良さそうに見えたから俺と大久保さんのことを知っていたのかもしれない。
「わかった。わかったよ。詳しい話は昼休みにでもするからそろそろ一度自分の席に戻れよ。もう、予鈴も鳴ったし先生来るぞ」
普段は一緒にいて楽しい奴なんだけど、自分に彼女がいないからこの手の話になると異常に絡んできて面倒くさい。とりあえずは、昼休憩まで時間を稼いだけど、どう説明しようか。
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次回は陽君の危険な友人登場です。
次回更新は1月12日午前6時の予定です。
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