第39話 登校中に手は繋ぎません(ここから陽君視点)
溶けきっている意識の中に突如として軽快な電子音が入ってきて、強制的にこっちの世界へ意識が引きずり戻された。
ほとんど無意識のうちに音源であるスマホに手を伸ばして急いでアラームを止める。あまり長く鳴らしては隣で寝ている夜見さんに迷惑だ。
目を軽く目を擦り、彼女が寝ているであろう方に身体を傾けて目を開けるとそこはすでにもぬけの殻だった。
いつもよりも早めにセットしておいたはずのアラームは正常に
リビングにはすでに制服に着替えを済ましてその上からエプロンを付けている夜見さんがいた。
制服+エプロンって夢詰まり過ぎ。小説なら挿絵に使われるシーンだよ。
「おはよう」
「おはようさんです」
「早いね。もう着替えまで終わっているんだ。夜見さんいつもこんなに早く準備しているの?」
「いえ、いつもはもう少し遅いんやけど、今日は初日やさかい少し早くしてるだけです」
「それなら声を掛けてくれれば、朝食の用意も手伝ったのに」
「その辺りは大丈夫です。朝食の用意はそんなにかかりませんので。それより、もうすぐ食べれるさかい、顔とか洗ってきてください」
了解ですと答えて、脱衣所の水道で顔を洗う。
意識をしっかりとさせて鏡に映った自分の顔を見る。特別イケメンではない。自分の両親の遺伝子を考えれば妥当なレベルの顔と言える。
一人暮らしをするにあたり、母親からは清潔感は持ちなさいと重ねて言われていたが、最近散髪に行っていないせいか、もともと長め髪がさらに長い気がする。そういえば、夜見さんにももう少しさっぱりした方がいいって言われたっけ。
朝食を食べ終わり、使った食器を洗う。
せめて後片付けやそうじとかはしないと全てが夜見さんにおんぶに抱っこになってしまうと思って、積極的にするようにしている。この姿を実家の母親が見たら驚くだろう。中学時代実家では家事は何もやらないレベルだったから。でも、実家暮らしの中学生なんてだいたいそんなもんだろ。
ちなみに大沼荘にいた頃は家事はまとめてやっていたし、きっと今より雑だったと思う。今は雑に家事をこなすと後から夜見さんがもう一度やり直すのではと思い丁寧にしている。
出発の準備が完了して、二人一緒にマンションのエントランスを出て徒歩で通学するのだが、手を繋ぐなんてことはしない。もちろん恋人繋ぎなんてもってのほかだ。
そう自分に言い聞かすのは、昨日のベッドの中で夜見さんと恋人繋ぎをした時の心地よい感触がまだ手に残っているのでその誘惑に負けてしまわないためだ。
俺たちは許嫁として正式にその契りを結んだわけでもなく、恋人同士でもない。何と言ったらいいかわからない不思議な関係。同居人とまでいうとちょっとそれは素っ気ない。でも、同棲なんて言うと急にカップルのようになるからそれも違う気がする。本当にややこしい関係だ。そんな関係だからこそ恋人繋ぎなんかしちゃいけない。
通学路である坂道を下り、そしてまた上りながら俺たちの通う
「夜見さんは暑くないの?」
「今日ぐらいならまだええのですが、もう少し暑くなってくると上着は脱ぎたくなります」
夜見さんの制服の着こなしはきちっとしている。シャツのボタンも上までしっかり留められリボンも緩みがない。スカートも膝が出る程度の長さになっており、学校紹介のパンフレットに出てくる模範的な生徒って感じだ。
俺はネクタイが苦しく感じるので普段は少し緩めにしているのだけど、先程、部屋を出る際に「ネクタイが緩んでますよ」と夜見さんにしっかり直されてしまったので今日は模範生だ。
学校が近づき生徒の数が増えるが、特にいつもと変わらない様子だ。よくマンガやラノベにあるような「えっ、夜見さんが男子と登校してる」「あの隣にいる冴えない感じの男子だれ?彼氏?」「俺の美月ちゃんの隣と歩くなんて許さん」という好奇心や妬みや怨恨の声は聞こえてこない。意外とみんな他人のことなんて無関心なのかもしれない。
教室に入ったところでそれぞれの席に分かれた。俺の席は窓際の後ろだが、夜見さんは教室の中央のやや前というところだ。
夜見さんが席に着くとすぐに夜見さんの横にやって来たのは
あー、これ絶対に後でいじられるやつだ。
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次回は陽君の危険な友人登場です。
次回更新は1月12日午前6時の予定です。
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