第36話 お嫁さんに来てくれたら
その後、二人で少しだけ話をした。そこでこの老紳士が毎日何時くらいにお参りに来ているのかということを聞けた。
これも何かの御縁や。
そう思ってこの縁が切れんようにと思った。今はまだ直接陽君のことを聞くことはできないけど、そのうち陽君の近況を聞くことできるかもしれない。
それからは、時間が合いそうなときはこの神社に顔を出してみた。
老紳士は名前を
話しているうちにうちと同い年の孫がいて名前を陽と言うという話がでた。間違いないだろうとは思っていたけれど、確証を得られてほっとした。
真司郎さんが思てるより、陽君は奥手ではないと思うんやけど……。
●
季節は春から夏へと移り変わり立ち話をするには厳しい季節だ。最近、真司郎さんと話すときは境内にある休憩所で座って話すことが多い。ここなら日陰なので少しはましだ。真司郎さんは私が来そうな日には冷たい飲み物を持ってきてくれていて今日もそれを飲みながら話している。
「ほんと、美月ちゃんみたいな子がお嫁さんに来てくれたらいいんだけどね」
「そ、そんなうちは……」
不意な問い掛けになんて答えたらいいかわからなかった。
自分はあの時、自分がしくじったせいで陽君との繋がりを切ってしまった。それからもう一度彼に会いたい、話がしたと思ってこれまでいろいろ頑張ってきたけど、本当のところうちはそれが実現したとしてその先どうしたいのだろう。もちろん、彼のことが好きだから付き合いたいと思う。
でも、その先は……、
「おっと、急に困らせるようなことを言ってごめん、ごめん。今のは美月ちゃんがそう思えるくらいしっかりした子だなと思ったから、ぽろっと言ってしまっただけだよ。いきなり知らない人のお嫁さんになんて言われて困らせてしまったね」
「いえ、その何というか……、うちはまだちゃんとお付き合いをした人がいーひんさかい、お嫁さんやらそない具体的なことイメージできひんかったんです」
「そうだよね。美月ちゃんくらいの歳じゃそんなこと考えないよね。わしも陽をちょっと心配し過ぎかな。わしとうちの妻は
現代と真司郎さんの時代ではいろいろな意識が違うだろう。昔の人のほうが今の自分たちよりも精神的な意味で大人になるのが早かったのだろうと思う。
真司郎さんからもらった冷たいペットボトルのお茶をちびりと飲んで、
「許嫁ですか……、お孫さんの方はどう思てるんでっしゃろか」
「うーん、あいつはまだそんなことは考えていないだろうな。それよりもあっちの方でいろいろ上手くいかんことが多いから、地元の高校じゃなくて、わざわざ東京の高校を受験しようかと考えてるらしいからな」
と、東京の高校!?
全く予想していなかった情報が飛び込んできて持っているお茶をこぼしてしまうところだった。
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次回更新は1月9日午前6時の予定です。
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