【幕間2】 恋人つなぎは見えない
昨夜は夜見さんとどう接していいかわからなくて、ベッドの端で寝ていたけど今日はそんなことはしない。
しかし、あまりにも真ん中に陣取るというのもどうだろう。こういう時にどうしたらいいかということを義務教育では教えるべきだと思う。義務教育でそういうことを経験しなかった俺がこうやって高校生になって困っているのだから。
例えば、ベッドの中心線から五〇センチ離れた位置に尾てい骨がくるようにするとかというように家庭科の授業とかで扱った方がいい。
「陽さん、さっきからベッドの方見て何を考えていはるの」
自分のベッドの前でどこに寝ようか等と考える人はまずいないだろうから夜見さんには奇妙な人だと映っただろう。
「えっと、昨日は一人で端の方で寝て悪いことしたなと思っていたところ」
「……めちゃくちゃ目泳いでますよ。まあ、今日は一緒に布団に入るから昨日みたいなことはないですが」
夜見さんが先にベッドに上がってくれたので適度な距離を保って俺も寝る位置を決める。最初からこうすれば何の問題もなかったのだ。
目をつぶっても昨日とは別な緊張を感じてなかなか眠気がこない。だいたい、今日も昨日に負けないくらいの出来事があった。生まれて初めて神様にため口で話したし、暮方さんには二股疑惑をかけられるし、……大久保さんたちにも会うし。
昨日まで付き合っていたはずの彼女が他の男と一緒に楽しそうにしている姿は何とも現実離れをしていて受け入れることができなかった。
それにしてもあの二人の姿を見ただけで気分が悪くなるなんて、なんてかっこ悪いのだろう。明日からは喧嘩を売ったりするわけではないけど、堂々と普通にしていられるようにしないとと考えていると俺の手に何かが触れた。
もちろん、このベッドには俺と夜見さんしかいないのだから触れたのは夜見さんの手だ。
目を開けて少しだけ首を横に傾けると夜見さんもこちら向いているのがわかった。
「少しだけ、……手つないでもいいですか」
どうしてだろう。昼間も手をつないだはずなのにこうやって言われると初めて手をつなぐ時みたいな緊張が走って「うん」と答える前にシーツで手汗を拭ってしまった。
俺の返事を待ってから再び夜見さんの手が俺の手に触れて手をつなg……、あれ、夜見さん、どうして、手をつなぐのに俺の指と指の間に夜見さんの指が入ってくるのかな。
これって、手はつないでいるけど世間一般で言うところの恋人つなぎというやつではないですか!
「よ、夜見さんこれって――」
「今だけ……、外でこうやってつないでくださいとは言いません。うちだって、これはちょっと恥ずかしいです。でも、今だけ、それに今なら布団に隠れて手は見えません」
見えるとか見えないが重要なの!?
「たしかに外でこれはちょっと想像しただけでも恥ずかしいかも」
「はい。でも、今ならこうやって手をつないでいるだけで気持ちが不思議と落ち着きます」
夜見さんの言うとおり、俺も夜見さんと手をつないでいると気持ちが落ち着いてくる。だからこそ、大久保さんたちに会った時に夜見さんに手を握ってもらったことに心が救われたのだろう。
「今日はありがとう。大久保さんたちに会った時に夜見さんがいてくれなかったら俺倒れたかもしれない」
「そないなことなんでもないです。でも、陽さんはよかったんですか。あの時に大久保さんが浮気していたことと責めたりしなかったみたいですが」
「……うん、責めても何もいいことないだろうから。やられたらやり返すとか、みんなの前で浮気を暴露してざまぁとかしたいとは思わない。それは俺がへたれなだけかもしれないけどさ。あっちが俺を攻撃してきたり夜見さんのことを悪く言うようなら考えなくはないけど、今日は穏便な感じだったからこっちからは何もしなくていいかなとも思ったしね」
大久保さんはともかく山吹は俺に見せつけるような感じで話していたからちょっと明日以降も注意しておこう。さすがに学校ではあからさまに接触してくることはないと思うけど。
「陽さんがそう考えてはるならよかったです。うちは陽さんがいろいろな気持ちに蓋をし過ぎて、すごく我慢ばかりしてはるかなとちょっと心配しました」
「心配してくれてありがとう。でも、夜見さんに心配ばかりかけても良くないから俺がもっとしっかりするようにしないとな」
「そないに力まんでもええです。うちは今の陽さんがええです」
どうやら夜見さんはどこまでも俺を甘やかしてくるようだ。
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次回より第二幕の京都編スタートです。舞台は5年前の京都、まだ小学生だった夜見さんが主役です。
次回更新は12月27日午前6時の予定です。
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