第20話 暮方茜の尋問【後編】

 大久保さんというのは別れた元カノ――大久保夕おおくぼゆうのことだ。大久保さんと俺が付き合っていることは学校では表立って公表していたわけじゃないけど、女の子同士の情報網なら知っていてもおかしくない。


「大久保さんとは別れた。……というか振られた。それですごく落ち込んでいたら、たまたま夜見さんが慰めてくれて、それで友達になって、今日は一緒に買い物に行こうって誘ってくれたところ。だから、大久保さんと夜見さんに二股かけてるなんてことはしてないよ」


 暮方さんは俺の発言の真偽を探るように身体を少し前に倒すような姿勢で俺の目を覗き込んでいる。


 暮方さん、どうしてこのタイミングでその体勢をとるの。君は胸元の防御力が低いんだからダメだよ。


 きっと、今、噓発見器にかけられたら、質問ではなくで暮方さんのたわわなメロンによって動揺しているという結果が出てしまう。


「うーん、嘘はついてなさそう。それに東雲君が大久保さんと付き合っていたのは美月も知っているはずだし……」


 そりゃ、嘘はついていない。ただ、大事なことも言っていないけど。


 つーか、俺と大久保さんが付き合っていたことはそんなにクラスメイトの中では周知の事実だったんだな。となれば、寝取ったアイツも全部知ったうえでのことということか。


「暮方さんは夜見さんと仲がいいからわかるでしょ。俺が大久保さんと付き合っているままなら、二人きりで出掛けようなんて誘わないし、逆に俺が誘ったとしてもそれに付いて行くような人じゃないって」


「そうだよね。変に疑ってごめん。それにしても美月が東雲君を選ぶとはね。あたしは去年も美月とは一緒のクラスだったけど、美月が男の子と二人だけで遊びに出掛けているのは初めて見るよ。今まで告白されても誰とも付き合ってなかったみたいだしね」


 暮方さんはペコっと頭を下げた。だから、身体を前に倒すと(以下、省略)。


 夜見さんは俺を選んだんじゃなくて、御利益達成のために派遣されただけ。きっと、その運命とか使命を知っていたから今まで告白されても誰とも付き合わなかったのだろう。


 店に戻ると夜見さんはボディーソープのコーナーで商品を見ていた。


「美月、急に東雲君借りてごめんね。もう、話し終わったよ」


 夜見さんは、もうええのと返事をして、何もなかったかのように暮方さんと気になっている商品について話し始めた。俺にはこういう店の商品に関する知識がないので暮方さんがいてくれてちょうどよかったのかもしれない。


 夜見さんは気に入った商品が見つかったらしくてそれを購入することにした。夜見さんがレジでお金を支払っている時に暮方さんからちょいちょいというように手招きをされたので、再び彼女の方へ行くと小さな声で謝られた。


「もし、美月が怒っていたらごめんね」

「どうして? 暮方さんと商品を選んでいる時もいつもと変わらない様子に見えたけど」

「うーん、何となくだけど女の勘かな。美月は普段はそんなにたくさん感情を出さないからわかりにくいかもしれないけど――」


 夜見さんが感情を出さない? いやいや、昨日からめちゃくちゃ恥ずかしがったり、泣いたりしてますよ。


「――あっ、会計終わったみたい。ほらほら、東雲君は美月のところ行って。何かあれば明日学校で教えて」


 暮方さんにトントンと軽く背中を押されて夜見さんのところへ戻ると買ったばかりの商品が入っている袋を持ってご満悦の様子だ。


「よかったね。いいものが買えた?」

「はい、茜とも相談してええ物が買えました」


 夜見さんは空いている手で俺と手をつなぐとそのまま暮方さんに商品選びを手伝ってくれたことのお礼を言って店を出た。


 暮方さんの前で夜見さんと手をつないでいるというのがなんだかとても恥ずかしかった。さっき夜見さんは俺たちのことを友達って言ったけど、これではどう見てもカップルだ。いや、カップルだってクラスメイトの前では手なんかつながないんじゃないか。


「ねえ、夜見さん、このあたりは駅ほど人も多くないから手をつながなくても迷子にならないと思うけど――」

「あきません。迷子にはならへんかもしれへんけど、陽さんが他の人に付いて行くかもしれへんさかい」


 俺ってそんなに簡単に誘拐されちゃうタイプなの。


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 次回更新は12月22日午前6時の予定です。

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