第19話 暮方茜の尋問【前編】
声を掛けてきたのはクラスメイトの
暮方さんはうちの高校では珍しいギャル系だ。セミロングの髪は栗色に染められていて途中からウェーブがかかっている。学校では制服のシャツのボタンを第二ボタンまで開けていてリボンも締まってはいない。これだけ胸元が無防備になっているのにその下に隠されている双丘は大きいので、前かがみなったときには非常に目のやり場に困る。
今日は休日なので制服ではないのだけど、肩周りにシャーリングが施されているオフショルダーのトップスにスリムなサロペットを合わせていて、これまた目のやり場に少し困る服装だ。
「や、やあ、暮方さん、こんなところで会うなんて奇遇だね」
「奇遇どころじゃないよ。東雲君がこのお店にいるなんて超意外じゃん」
うわー、休みの日もけっこうテンション高めだな。この感じ苦手なんだよな。
でも、暮方さんはオタクっぽい俺に対しても普通に接してくれるという点ではオタクにも優しいギャルと言ってもいいかもしれない。
「そうだね。俺はこのお店には初めて来たから。暮方さんはよく来るの」
「あたしは自分で使うのを買うこともあるけど、友達へのプレゼントとかを買いに来ることもあるからそこそこ多いかな。東雲君は美容に目覚めちゃったの」
なんとか暮方さんをやり過ごしてこの場から早く離れたい。ここに留まっていれば、そのうち夜見さんが俺を探しにやって来るだろう。その時に夜見さんと暮方さんが顔を合わせれば、どうして俺と夜見さんが一緒に買い物なんかしているのということになる。俺と夜見さんの関係を簡潔に表す言葉なんかないのだから、絶対にややこしいことになるに決まっている。
「えーっと、そういうのじゃないんだけど、付き添いというか――」
「陽さん、いいものありました?」
夜見さんがひょこっと現れて俺に声を掛けると、その声に気付いた暮方さんも夜見さんの方を向いた。
ジーザス。夜見さん、俺を探しに来るの早いよ。
「あれ? 美月もいるの。ってか美月と東雲君、一緒に来てたの」
「はい、今日は陽さんと一緒に買い物に来ているところです」
「え? 二人ってそんな仲良かったの? 学校で一緒にいるところ見たことない気がするけど、もしかして、あたし遭遇してはいけないタイミングで遭遇しちゃった!?」
ほら、もう既に面倒くさくなる雰囲気がぷんぷんしてる。
夜見さんも事実だけどあっさりと言いすぎじゃない?
さて、問題は暮方さんを方だ。仲が良かったのと聞かれて、そうでもないと言えば、夜見さんに角が立つし、仲が良いかと言えば、事務的会話を除けば昨日初めてちゃんと話したような仲だから良いというには早い気がする。
「茜、うちと陽さんはそんな怪しい仲やないよ。うちは――」
まずい、ここで暮方さん相手に許嫁のカミングアウトは早すぎるって! まさか、そうやって夜見さんは俺の退路を断とうとしているのか。
ここで夜見さんの口を塞いで一度黙らすか、別の言葉を俺が大きめの声で言って被すことで隠すか、なんてことを考えてしまったために判断が遅れて俺は何もできないまま夜見さんは言ってしまった。
「――陽さんの友達です」
「そ、そうなんだよ。暮方さんも意外でしょ。この連休になってから急に話すようになってさ」
セーーーフ。嘘にはならないベストな答えだと思う。だって、こうやって二人でショッピングしているのもデートじゃなくてただのお出掛けなんだから。
でも、夜見さんにはっきりと友達と言われて、どうしてだかわからないけどちょっとだけ心がズキっとした。
「ふーん、友達なんだ。ねえ、東雲君ちょっといいかな。あっ、美月はちょっと待ってて、東雲君と少し話すだけだから」
暮方さんは俺の手を掴むとそのまま店の外まで連れ出した。間違いなく彼女の後ろ姿からは怒りを感じる。さっきはセーフと思ったけど、あの発言アウトだったの?
店を出ても繁華街なので人通りはそれなりにある。暮方さんは店の入口から数メートル離れた場所まで来ると俺の手を開放してくれた。振り返って俺の方を向いた彼女の顔は怒りというよりは軽蔑に近い表情をしている。
「東雲君ってさ、大久保さんと付き合っているよね。それなのに美月ともこうやって遊んでるってどういうことかな」
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次回更新は12月21日午前6時の予定です。
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