第18話 うーたんの正体
二人が店から出るとすぐに夜見さんがお手洗いから戻ってきた。
「お待たせしました。あれ? 陽さん、どないしましたか? そないに入口の方見て」
「ついさっきまで、夜見さんの仲間というか、昨日の引越しとかを手伝ってくれていた人がいてちょっと話していたんだ」
俺の返事を聞いた夜見さんはむむっという様子で眉間に皺を寄せた。この様子だと俺とさっきの二人が接触したことは夜見さんには事前に知らされていなかったようだ。
「……陽さんの言う仲間というのはどないな人ですか」
「一人は昨日の引越の作業を指示していた人で短髪で金髪、耳にはピアスをたくさん着けてて、指輪もごつごつしたやつしてる。だけど顔は眉が太め目で目力がある怪しい雰囲気の人。もう一人は女子小学生くらいで黒髪のショートカット。話し方がちょっと甘ったるい感じでうーたんって名乗っていたかな」
俺の話を聞いてる途中から夜見さんの白い肌がから血の気が引いて、青白くなっていった。
「ひ、陽さん、その女子小学生みたいな子はうちのことについて何て言うてましたか」
「特になかったと思うけど。二人が帰ろうとしたときに夜見さんに会わなくていいのかって聞いたら、今はまだいいやって言っていたぐらいかな」
「今はですか……。そのうーたんと名乗った子なんですが、おそらく
「ウカノミタマ様?」
「うーん、簡単にいうと稲荷神社に祀られている神様のことです。うちらは宇迦之御魂神様にお仕えしている狐になります」
うーたんが神様なの!? どう見てもただの女子小学生だったし。なんならちょっとふざけている感じもしたし。つーか俺、神様相手にため口だったけど大丈夫だよな。急に祟りとかないといいけど。
さっきの俺との接触は今回の御利益の件の最高責任者がその様子を視察に来たってところだろうか。
「どうりであの怪しいおじさんよりうーたんの方が偉い感じだったわけだ」
「あのちょっと怪しいおじさんは
絶対にそれ偽名だよ。でも、うーたんもおじさんを“いっちー„って呼んでいたから本名の可能性もあるな。まあ、この際どちらでもいいか。
今はこれ以上あの二人のことを考えても仕方なさそうだ。
ただ、神様が直々に夜見さんとの縁を大切にってことだし、まずは夜見さんが今朝言ったようにお互いのことを知るところからだよな。
「ねえ、夜見さん、買い物はしたけど、お昼にはまだちょっと早いからぶらぶらといろんなお店を見て回りながらご飯のお店を探そうか」
「そうですね。まだ、お腹もあまり空いていないのでそれがええと思います」
そう、今日は二人でお買い物に来ているのだから、いろいろ見て回るに越したことはないはずだ。
●
インテリアショップから少し歩いて、次に向かったのは夜見さん希望のコスメショップである。もちろん、俺はこの店に来るのは初めて、というよりもコスメショップ自体が初めてだ。普段使っているシャンプーとかは自宅近くのドラックストアで適当に買ったものだし、特に中の成分を気にしたりはしていない。
でも、夜見さんはシャンプーを始めいろいろなものに気を使っているようだ。
「女の子はみんな綺麗になるように努力してるんよ。なんもせんで綺麗になれるわけとちがいます」
顔が整って可愛ければそれだけでチートなのかと思っていたけれどそうではないらしい。夜見さんはそれにと付け加えるようにして、俺に耳打ちした。
「うちの場合は髪だけじゃなくて、尻尾の手入れも大変なんです。今度触ってみます」
夜見さんのもふもふの尻尾は昨日初めて見たけど一目で手入れが行き届いていることがわかるものだった。きっと日々のシャンプーやブラッシングの賜物なのだろう。
昨日からちょっと触ってみたいと思っていたが、猫や犬だって尻尾を触られるのは嫌がるので、きっと触ってはいけないものなのだろうと思ってその気持ちを抑え込んでいた。その尻尾を触ってもいいなんていう誘惑の言葉に思わずゴクリと喉がなってしまう。
「ふふっ、でも、触る時は優しくしてください」
夜見さんの囁きを聞いて、俺はなんだかとても悪いことを考えているような気持ちになり、一度夜見さんから離れようと俺は一人で男性向けの商品のコーナーに行くことにした。
男性用のフェイスケア商品の前で大きく息を吐いて一度気持ちを落ち着かせようとしたのだけど、そうなる前に後ろから聞いたことのある声がした。
「あれ? 東雲君、どうしてここに?」
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次回更新は12月20日午前6時の予定です。
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