第17話 面倒くさい迷子【後編】

 俺は初対面の女子小学生に何を言っているのだろう。きっとこの子は普通の女の子ではないと思うが、傍から見たら高校生が小学生相手にムキになって話しているようにしか見えない。このご時世気を付けないとすぐに警察を呼ばれて大事になってしまう。


「なるほどねぇ、東雲君はそういうことを気にしていたのか。それなら、君が元カノのことを忘れて気持ちを切り替えられるまで美月は待てばいいのかなぁ。どのくらいかなぁ、一週間、三カ月、一年?」

「夜見さんには悪いけどそれはわからない。それに俺には他にも気になっていることがあるので、すぐに結論は難しいかなと」


 昨夜、夜見さんは俺の気持ちを知りたいと言っていたけど、夜見さんはどうなのだろう。御利益達成というミッションのために自分の気持ちに嘘をついて俺に接しているんじゃないか。襟巻にされては困るから可愛く振舞っているのではないか。考えれば様々な疑問が浮かんでくる。


 ジトッとした恨めしい視線を感じたので、視線を落とすとうーたんが軽蔑したような目でこちらを見ている。煮え切らない態度の俺にがっかりしているのだろうか。


「東雲君は元カノと別れて美月がそばにいるのに、さらに他にも気になっている子がいるなんて、私は君がそんな人だとは思っていなかったよぉ。気になっている子というのはやっぱり、美月とは違うタイプ? ボン・キュ・ボンでグラマラスなお姉さん系とかなの」

「気になっている子じゃなくて、気になっていること! 俺を勝手に女たらしにしないで」

「だよねぇ。私としては東雲君が女たらしで可愛いヒロインが次々出てくるハーレム展開になるのかと思ったよぉ」


 残念ながら俺にはそこまで魅力がないから女の子は集まって来ないし、仮にたくさんの女の子がアプローチを掛けてきたら気を使い過ぎて身が持たないと思う。


 そろそろ夜見さん戻って来てくれないかな。こちらの女子小学生の相手はかなり疲れるのだけど。


「おっと、探していた迷子があっちの方からやって来たぁ」


 うーたんの向いている方を見ると、肩で息をしている昨日の怪しい引越し業者のリーダーらしい人がこっちに向かって来ている。今日は紫色のスーツを着ているので昨日よりもヤバい業界の人っぽい。


 うわー、周りのお客さんが露骨に避けてる。というかその格好でこの女子小学生と一緒にいたら絶対に職質される気がする。


「こちらにいらしたんですが、ここの近くのドーナツ屋さんのドーナツが欲しいっておっしゃるから探したら、五年くらい前に駅の反対側に移転したっていうことでそこまで行って来ましたよ。」


 怪しい風体のおじさんがドーナツ屋さんの袋を持っているというのがなんともアンバランスで面白い。


「お疲れ、いっちー。移転したなんて全然知らなかったよぉ。でも、いっちーが迷子になるくらい探してくれたおかげで、東雲君とも少し話せたからよかったかなぁ」

「ハハハッ、ここ僕のホームタウンだから迷子になんかなるわけないでしょ。迷子なのはどう見てもウカn、ゲハッ」


 うーたんは一瞬でおじさんとの距離を詰めると迷いのないボディーブローを一発撃ち込んだ。


「迷子は誰かなぁ」

「僕です。僕でいいです」


 一撃でこのおじさんの片膝を地面に着かせるとはうーたんかなり武闘派。


「よろしくて。それじゃあ、東雲君、私はそろそろ行くね」


 ぴょんぴょんというようにまるで重さがないような足どりで店の出入り口の方へ向かって行くうーたんに問い掛けた。


「夜見さんに会わなくていいの」


 うーたんは顔だけをこちらに向けて答えた。


「うん、今はまだいいやぁ。東雲君、君の気持ちもわかるけど、これも何かの縁だから大切にしてねぇ」


 それだけ言うと、二人そろって店を出て行った。おじさんの方が職質を受けないことを願うばかりだ。


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 私の体調について心配をおかけしてすいませんでした。

 次回更新は12月19日午前6時の予定です。

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