第13話 デートではありませんお出かけです
寝室を出てダイニングに行くとすでに朝食の用意が出来ている。
これ以上待たせては悪いと思いながらもとりあえず、顔だけでも洗うことにした。向かいに座っている夜見さんに目ヤニの付いた顔を晒すのはさすがに悪い。
朝ごはんから夜見さんはしっかり作ってくれていて、アジの開き、卵焼き、ほうれん草のお浸し、味噌汁という俺からすれば豪華すぎるメニューだ。
「朝から気合入り過ぎじゃない。実家にいた時だってこんな朝ごはんなかなか出てこなかったと思う」
「そんなに褒めんといてください。お味噌汁は昨日の夕ご飯の時の残りやし、お浸しも昨日の胡麻和えと一緒に作ったもんです。だから、今朝作ったんは魚焼いたのと卵焼きだけです」
「いやいや、それだけ作れば十分でしょ。俺は今まで朝はコンビニかスーパーで買ったパンをかじっていただけだから。こんなにたくさんおかずが並んでいて嬉しいよ」
「お、おおきに。陽さん、朝からほめ過ぎちゃいます?」
俺としては特に意識してお世辞や盛った感想を言ったわけではなかったのだけどな。先に起きてご飯をわざわざ作ってくれたのだから大変感謝している。
ご飯を半分ほど食べたところで、夜見さんが箸を止めて上目遣いになりながら、申し訳なさそうに話し始めた。
「あのー、昨日の夜のことなんやけど、ちょっとだますようなまねして本当にすいません。でも、うちは陽さんがうちのことをどう思っているか知りたかったんです。陽さんは優しいからいつもうちの気持ちの方ばかり気にしていはるようだったんで……、そ、それとあんなこと言いましたがうちのことはしたない女なんて思わんといてください」
最後の方は消え入りそうなぼそぼそとした声で俯きながら話して、卵焼きをつんつんと突いている。
昨夜のベッドでの出来事はどこまでが計算だったのだろう? 正直、パジャマを掴まれて涙声になっているところなんかは演技に思えなかった。そういうところを見破れないから元カノの浮気にも気が付かなかったのかもしれないけど。
「いや、だますようなまねなんて言わないで。もとはといえば、俺が夜見さんをどう思っているとか、今後の生活についてどうするかということを全く言わずに中途半端なことしか言わなくて不安にさせたことが悪いから」
このことについては、俺がいけない。着の身着のままの荷物で来た夜見さんに許嫁の件を受入れるとも拒むとも言わず、ここに居てもいいとも、だめと言わず何も決めないでいたからだ。彼女からしたら宙ぶらりんな状態で放置されて不安だったのだろうと思う。
「うちの方こそ急かすようなまねをして……、でも、ここにいていいって言うてもらえて嬉しかったわぁ」
夜見さんは箸と茶碗と持った格好でニコッと笑った。
そのストレートな笑顔はずるい。この笑顔の写真をお米の広告に使えば売り上げはきっと上がると思う。
「でも、昨日も言ったけど、許嫁の方はまだ待って欲しい。話が急すぎて俺の中で整理できていないからさ」
「それについては、うちもわかってます。だから、陽さんにはもっとうちのこと知って欲しいんです。そして、うちも陽さんのこともっと知りたいんです。多くのカップルは付き合う前に友達みたいな期間があってそこで少しは相手のことを知った上で付き合うと思うんです。うちと陽さんはそんな期間がないさかい。まずは……、一緒にお出掛けとかしてみたいと思うんやけど。……今日は予定空いてますか」
これって、お出掛けって言っているけど、世間一般的にはデートだよな。
そうか、許嫁の件は保留にしているけど、ここに居ていいよと言ったから夜見さんの中では俺たちは友達ないしは恋人的な関係ということになっているのか。俺としてはとりあえずは同居人くらいから始めようかと思っていたところだけど。
「今日は全然予定ないからお出掛けするのはいいけど、どこに行こうか」
「この部屋にはおっきな家具や家電は揃うてるんですけど、小物は足らへんものもあるかなと思ったさかい、ここらに行きたいんです」
夜見さんのスマホにはターミナル駅周辺の北欧インテリア雑貨のお店や品質がお値段以上の家具店、若い女の子が好きな雑貨を取り揃えている店などが表示されていた。
「この辺の店なら地下鉄ですぐ行けるから、ご飯が終わったら準備していこうか」
「ほんま! おおきにありがとう」
これらの店に二人でいるところが目撃されたら学校で
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波乱のお出掛け編スタートです。
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次回更新は12月14日午前6時の予定です。
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