第21話 奇跡の種

 朝の日課を終えて食堂に行くと、タケタクがすでに食事を済ませて待っていた。


 「おはよう。今日は早いね」


 「ああ。これからが本番だからな。」


 「おはよう。今日はみんな早いね」カズマが一番最後にカレーを持って現れた。


 「食べ終わったから先に異界に行ってるぞ。タケはどうする。」


 「ああ。じゃあ二人とも先に行ってるからな。」と言い残してそそくさと行ってしまった。カズマと二人でポカーンだ。


 「エロパワーは恐ろしい物なのだね。タケタクをあそこまで変えてしまうとは、人類に扱えるものなのか疑問だよ。」


 「大丈夫だよ。モモちゃんにも余るくらいには備わってるから。」


 「そういえばカズマとカズミはどういう関係なの?もしかして交際中?相思相愛?」


 「ハハハハ。俺達は幼馴染だよ。なにせ家が近くだったからさ、兄弟みたいなものかな?」


 「そうなの?」


 「俺にも色々有るからね。」興味が無いので何も聞かなかった。


 異界では今日も14階である。どうも進め方は変わらずにダンジョンをくまなく探して歩いてから下に下りるというスタイルは貫くようだ。


 「タケ兄のパーティーはそうやって進めるんだ。」ワカナが聞いてきたから教えた。


 「そっちは違ったの?」


 「私達はミカ姉とハルナ姉が話し合って大丈夫か決めてたよ。ソードゴブが出るまでは順調だったけど、出てからは苦戦しちゃって三週間で1階下りれるのかどうかって感じかな?」


 「モモちゃんはレベルいくつなの?」


 「俺?30になったばかりだよ。」


 「え?そうなの?」


 「ワカナはいくつなの?」


 「私は35だよ。モモちゃん達はもっと上だと思った。意外」どうやらカズマの情報は正しいらしく、同年代で一番低レベルのようだ。ワカナ達も同世代の女の子の中で一番下らしい。


 「来たぞ」タケの声が響く。


 ソード君がチラホラ現れるのでトークタイムは長くは続かない。戦闘のメインは俺とカズマ。サポートにカズミとワカナって感じらしい。


 タケタクが戦う経験を積ませる為だと豪語して、近くで見ていて危険なら手助けという形で落ち着いた。


 なので敵が見えたらカズマが矢を射る。近づいてくると俺が突っ込む。俺の邪魔になりそうな集団の足止めをカズミとワカナが魔法で行う。出来そうなら殲滅。


 「ソードゴブ何体まで一度に相手できるの?」珍しくカズミに声を掛けられた。


 「基本は一対一だよ。数が居ても瞬間瞬間は一対一になるように動いてるだけだよ。」


 「へー。そうなんだ。」

 「それにカズマがアーチャーを先にやってくれるから、怪我しないで済んでるし」


 「だからか。私達の方の敵が多くてもカズ君が手を貸してくれないの。」なんか納得して、行ってしまわれた。すぐに敵が出たけどさ。良いんだけどさ。


 「モモ、聞いて良いか?」声が女なのにタケかと思った。


 「ん?何?」怖いミカさん登場だ。睨まれる。


 「剣はずっと振ってるのか?」


 「そりゃ一応は剣士だからね。」何を聞かれているのか全く分からない。


 「いや、そうじゃなくて」沈黙が流れる。


 「モモちゃんは毎朝、トレーニングしてるみたいだよ。ミカ姉」カズマが助け舟を・・・


 「どの位の頃から?」


 「何歳からって事?」ミカさんがコクコクする姿は何か可愛い。


 「3歳だか4歳だかかな?気付いた時には親父にやらされてたら。でも途中何年か剣にさわりもしなかったけどね」


 「どうして」今度はカズマか


 「釣り人だったからさ。剣は竿に変わっていたのさ。」何故か呆れられた。


 そんな感じで14階には一週間滞在した。午前午後で来てるから時間的にはそれなりに掛かってる。


 変わった事と言えば、タケが剣が出ると俺に予備の剣だと言って、ソード君の落とす長剣をくれるようになった事と、ポーションが全く手に入らなくなった事だ。


 落とさなくなった訳じゃなく、女の子達は魔法メインだからスタミナの回復薬として使うらしく全部上げているのだ。使わないから別に良いけど。


 ちなみに手持ちは1722個ある。999個と723個の二つ。


 15階も敵の感じに変化は無い。作戦に変更は無い。


 「ポーションが有るとドンドン使えるから、魔法上手くなってきた。」ワカナさんはお喜びだ。


 「そうだね。風破が烈風になりつつ有るもんね」ミカさんは俺以外と話す時は普通に女の子だ。


 「魔法ってスタミナが重要なんだね」


 「当たり前だろ。別に魔法を使うだけで使うわけじゃないんだ。

 それこそ、敵の矢を注意するのにも、魔法を発動出来なくても使うし前衛がしっかりしてないと、MPが無くなって魔法が使え無いなんて事態は起きないんだ。」何故?俺と話す時はミカさんはタケの様な話し方になってしまうんだ。


 「だから、君達と合流するまではポーションを集める為に上の階に戻ったり、スタミナ切れで休むのも多かった。こう見えても感謝してるんだ。」と怒鳴られた。


 MPが無くなるとワカナもカズミもミカさんと入れ替わったりして回復させてる。何でも二時間も有れば30%からでも完全回復するらしい。入れ替わりでやっていれば普通に4時間持つらしい。


 たしかにワカナとカズミは成長してる。ワカナはソード君を吹き飛ばすしか出来なかったのに、直撃なら倒せるようになったし。カズミの氷の矢は本数が10本くらい飛んでる。二回当てると倒せる。


 ワカナが吹き飛ばした奴らにカズミが氷の矢を降らせると結構な数の敵が一気に殲滅できる。たまに新しい魔法の練習もしてるみたいだ。


 今日は宝箱の日の様だ。朝から3個目だ。出る日はよく出る、出ない日は全然出ない。


 でも、たったの3個だ。10階より上なら出る日は30個は軽く出てた。それも半日で30個、15階は一日で3個。もっと下に降りると3週間に1個とかなるのかな?


 まあ上階で出るのは99%ポーションだけどさ。


 「はは、こりゃ珍しい物が出たよ。」タケが苦笑いしてる。


 なんだなんだ?と見に行くとピーナッツの様な小さな種だ。飲兵衛さんが好きそうのルックスだ。


 「モモ食べるか?」俺の方に投げ寄こしてきた。食べ物を投げるとは。すかさずキャッチ。して口に入れる。


 何故かみなさん沈黙・・・・・・・


 「あーーーーーーーー。モモちゃん」沈黙を破ったはずのカズマがパニックを起こしてる。


 「タケ。何て事を・・・・」ミカさんがオロオロしていて可愛い。


 「モモちゃんは少し頭が残念なのは分かっていたはずなのに、タケなんて事を・・・・」ハルナさん・・ひどい事言ってるよあなた。


 一年目の女子はどうすれば良いのか?ミカさんと一緒にオロオロしてる。


 「モモ。とりあえずステータスに変化が無いか確認してみろ。」言われたとおりにステータスを確認する。特に変化は無い。


 「特に変化は無いけど、さっきのなんだったの?」


 「お前に冗談でやったアイテムは「キセキの種」って名前のアイテムだ。聞いた事あるだろ?」真剣に思い出す。けど?なんだろう?


 「今までの話からモモちゃんが覚えてるわけ無いでしょ。」ハルナさんがお母さんみたいだ。この子にまだそんな事が分かるわけないでしょってノリだ。この子が俺を指してるのは軽く問題だけど。


 「キセキの種ってアイテムはね。食べると解けない呪いに掛かると言われてるアイテムなの。その呪いが解けなくて、現実で自殺する人も居るくらい怖いものなのよ。

 貰ったものを簡単に口に入れちゃダメ。タケは冗談にならない冗談をたまにやる事が有るから無条件に信用したらダメよ。」


 手遅れじゃん。もっと早く教えて欲しかった。みんなして心配そうな顔をして見てる。


 「モモ。ゴメンな。知ってると思って冗談のつもりだったんだ。本当に申し訳ない」タケがガラにも無く真剣に謝ってきた。そして不安になってきた。


 「でも、モモちゃん問題なさそうだね?知ってる話だと毒に犯されて苦しみ出したような?」


 「そうだったと思うよ」ワカナもマジマジ見てくる。女子の視線でクネクネしそうだ。


 「もしかして眉唾だったのかな?」


 「そうかもしれない。モモ何かあったらすぐに教えろ。」


 「分かった」


 少しだけ不安が有るけれど、まあ特に問題無いし気にしない事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る