第8話 貴族は大変らしい。

 ダンジョンの初日が終わった。戻ってくると部屋の中は真っ暗だった。普段なら寝る時間なのだろうか?あまり時間を気にした生活をしていなかったから良く分からない。


 明かりの紐を引っ張って明かりを点ける。


 ただブラブラしていただけなのに、色々と教わって頭を使ったからか?なんか疲れた。


 そういえば腹減ったな。


 考えてみれば、昼に列車に乗る前に、家で昼飯を食って以来何も食ってない。フラフラと一階に下りていく。カズマの部屋の場所も聞き忘れていた。


 「おお。迎えに行くかどうか、今ちょうど相談してたところだぞ」


 一階に下りて早々にタケミチ先生に捕まってしまった。そんな事よりも飯だろう。


 「食堂で食べるから行くぞ」タクが歩きだしたのに付いて行く。


 テーブルと椅子が並んでいるだけの何の飾り気もない所だった。

 

 タクが先頭で変な機械にキーを差し出している。


 キーってのは、細いワイヤーでぶら下げている5cm角の鉄色のプレートだ。決してお洒落アイテムではない。


 女子は支給されている細いワイヤーを変えたりしているが、誰でも学校に通うようになると持たされるもので、好みで付けている訳では無い。


 無くすとスゲー怒られるのに、簡単に新しくして貰える謎のグッズだ。でも、無いと列車に乗れなかったり、給食が食べられなかったり、VRが使えなかったりと色々問題が出るからいつでも持っている。


 どうやらキーをかざすとメニューが出てくるらしい。みんな選び終わって俺の番が来た。キーをかざすとメニューが表示される。カツ定食500とラーメン250にしよう。


 みんなと同じように押して後を追う。丁度60cm角位の穴が壁に空いていて、そこからローラーの道が続いている。注文したメニューが、その穴からローラーの上を滑る様に出て来る。


 穴を覗くと隣の部屋と繋がっていて、隣の部屋から運ばれてくるみたいだ。俺が穴の中を観察してると、すぐにカツ定食とラーメンが流れてきた。


 「さすが前衛だ。二品もってくる位じゃなくちゃな。」タケ先生はご機嫌?二品持ってきてる。魚の定食とカレーだ。


 「いやいや計画性が無いだろ。まだ来たばかりなんだから、もう少し慎重に金は使わないとな。」そういうタク氏はラーメンだけ。

 ちなみにカズマはカレーのようだ。


 「ん?これって金かかるの?俺は金持ってないよ」何でだ。何故笑う。


 「モモちゃん笑わさないでよ。鼻に米が入っちゃったよ」


 「モモ。金が無いのにどうやって今日買い物したんだよ。」普通を装いながらタケミチが言う。顔が笑ってるよキミ。


 「でも、小銭も札も無いよ。異界の金って使えるの?」


 「そうか知らないのか。」笑いながら言わないで欲しい、ちょっと恥ずかしいぞ。他には誰もいないみたいだけど。

 

 「村とかで使ってる金を銀行に入れるとキーの中に情報として登録されて異界の金になる。大きな町とかだと普通にキーに入っている金で買い物できるんだよ。

 ちなみに銀行に行けば異界で稼いだ金も札とかに換える事も出来るんだぜ。まさかこんな事を教える事が有るとは思わなかった。」そんな事を言いながらタクは得意げだ。


 よく分からないけど、キーには金が入っているらしい。


 それから同郷の三人でよく分からない話をしていたので、ノンビリと晩御飯を頂いて先に部屋に帰った。一日中風呂に入れるらしいが、今日は疲れたので朝入る事にした。


 明日は8時に朝飯を食いに食堂に集まる事を約束しておいた。


 ちなみに数馬は5階でタケタクコンビは3階だそうです。


 布団に入るとすぐに意識を失った。



 朝、起きるとまだ夜明け前で暗かった。


 いつもの日課でゆっくりと体を伸ばす。いつもの体操が終わってもまだ暗いが外に出る。寒いこの地方では冬場は雪が降ることも日常的だが、今日は晴れている様だ。おかげで冷えていて頬に寒さが刺さるようだ。


 持ってきた木刀を振る。親父が木刀で木を切った技を思い出しながら、自分の動きが完全に重なるように意識しながら・・・・・・


 寒いおかげで汗がにじむ程度だ。始めはしていた手袋も感覚が狂うと思って、外してからもイメージの通りに振っているつもりなのに?全然シックリいかない。何かが違うのだろうけど、何が違うのかさっぱり分からない。


 親父が言うには「完全に集中して切る事だけをイメージして切るんだ。」と言っていたけど訳が分からない。


 ここ2・3日はずっとあの技を盗む為に努力しているが、木刀はおろか鉄の刀でさえ、あのサイズの木を切れるかどうか怪しい。


 日も昇ってきたし、軽く走ってから風呂に向かう。


 脱衣所から風呂に入る扉には「体を洗ってから浴槽に入りましょう」とデカデカ張り紙してあった。


 風呂には誰も居ない、据付の石鹸で体と頭を洗って風呂に入る。朝風呂最高。


 気持ちよく浸かって居ると風呂の扉が開いて、さわやかさんが入ってきた。汗だくだ。


 「ああモモスケ君か。おはよう」


 「おはようございます」


 「さっき広場で剣振ってたね。早朝訓練?」


 「訓練というよりも日課ですね。ガキの頃から親父にやらされてたから。先輩こそ訓練ですか?」名前はなんだっけ?


 「僕はナツカリの名を、出来るなら四天王を倒して受け継ぎたいからね。」さわやかさんは体を洗いながら答える。


 「受け継ぐのに四天王を倒すの?」


 「フフフフフ。」また笑われた。


 「お爺様が言っていたように本当にキミは何も知らないんだね。貴族や王族にはその親の地位を受け継ぐのに条件があるんだよ。貴族だとレベル300以上王族だと500以上ってね。だけど、新しく貴族になるには四天王の十鬼族を5鬼倒すか四天王を一人倒す必要が有るんだ。」


 「十鬼族を5鬼って半分も倒すの?」


 「四天王ごとに十鬼居るから40鬼居るんだよ。もっとも四天王と一緒に居るのも居るから、単体だと37だったかな?定番のパターンだと、その中の弱い方から5鬼倒して貴族になるんだよ。ちなみにお爺様は四天王の鉄壁を倒してナツカリの名を継いだんだ。」


 「へ~~~」あの老いぼれが、人は見かけによらないものだな。


 「その、鉄壁を倒す為に何人で挑んだと思う?」風呂に入りながら聞いてくる。

 熱くなってきたので風呂のヘリに腰を掛ける。

 

 「う~~ん。30人くらい?」その質問が来ると言うことは人数が多いって事だろ。


 「100人だってさ。」


 「じゃあ世界は貴族だらけなんだ。」100人一気に貴族ってすごいな。


 「ハハハハ。英雄譚に出てくる英雄が居ればそうなるかもね。実際には生き残ったのはたったの3人なんだよ。レベル300以上の人間を100人集めても。」


 「みんなレベル1からになるの」死ぬとレベル1から始まる事くらいは知ってるぞ。


 「そうなるね。まあ、それなりにお金はもらえるし、アイテムでレベルそのままってのも有るらしいからね。」


 「そのアイテムが有れば最強じゃないですか。無茶し放題で」


 「そうだね。でも、アイテムで助かっても再戦する人はあまり居ないみたいだよ。

 貴族の子なら安全に300レベルにして戦わずに貴族になるのがほとんどで、四天王に一度負けて再戦する話は聞いたこと無いよ。」


 「そんなもんなんだ。一度戦って対策とってリベンジすれば良いのに。じゃあ俺は先に上がりますね。」朝からのぼせそうだ。


 「俺はもう少し入ってから出るから」


 着替えたのを自分の洗濯用の籠に入れて一階の洗濯物置き場に置いておくと洗ってくれるらしい、汗でしっとりとした服を洗濯物置き場に置いてから食堂に向かう。


 10階から降りるのは何気に面倒だ。だから、行ったり来たりは減らしたい。


 ワラワラと人は居るもののパーティーの奴らは誰も来ていないので、勝手に飯を注文する。今日はハンバーグ定食とカレーのセットだ。


 「モモは早起きだな。もう飯食ってるのか。しかも朝から良く食うな」


 「おはよう。先輩は朝は小食なの?」呼び捨ては怒られそうなので無難に先輩呼ばわりしておく。年上は全部先輩で良いだろう。名前を覚えなくて済むし。


 「俺は朝はカレーと決めている」なぜ得意げ?


 「モモちゃんおはよう。朝から食べるね」カズマはうどんですか。育ち盛りなのに。


 結局みんな食べ終わるまでにもタクの方の先輩は来なかった。


 「あいつまた寝てるな。ちょっと行って起こしてくる」そう言って立ち上がった時に、食堂にタイミングよく入ってきた。


 「お前遅いぞ」


 「何言ってんだよ。ちょうど良い時間だろ。まだ九時になってない」


 「7時過ぎから9時前を8時と考えるのはやめろと言ってるだろ。俺達は一応のところ教育係なんだから」


 「何言ってんだよ。村じゃみんなそんな感じだろ。集まってから始めれば良いさって。やりたい奴だけ先にやれば良い。そのまんまだろ。」


 「まあそうだけど・・・・・」


 タクが食べ終わるまで各々がノンビリ過ごす。


 結局10時前に10階の自分の部屋に戻って、白い帽子を被って布団に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る