第4話旅立ち

 1月1日


 待ちに待った「旅立ちの日」のはずが、何となく気持ちは晴れない。


 異界に行く不安なのだろうか?あんなにさっさと親父から離れて独立したいと思っていたのに、いざとなるとそんなものなのだろうか?


 今まで何度聞いても返事すらしなかった母親に関することも昨日の夜に親父の方から「お前が異界でそれなりにやっていける様になったら教える」と勝手に約束した。


 何となく理由がある事を生まれた時からの付き合いで何となく分かっている。


 小さい頃は駄々をコネもしたが、さすがに言えない事情が有るという事で納得していた。いや自分を納得させていた。


 親父とは稽古の後?違うな帰ってきてからギクシャクしている。お互いに緊張しているのかもしれない。


 「モモ。そろそろ時間だぞ」


 「ああ、準備万端だぜ」引越しの多い我が家は、自分の必要な手荷物くらい分かっている。肩に掛ける少し大きめの皮製のバックを一つ持つ。


 「今日くらいは俺が持ってやる」と言ってバックをひったくっていった。


 駅と言っても村の中心からは離れていて、村はずれの俺の家から歩いて5分ほど行ったところだ。


 村の人は年に数回利用する程度しか使わないので、元々は村の端に有った図書館の方が使用頻度が高くそっちの方に村の中心が移動したらしい。

 

 毎年の事だがこの日のこの時間だけ、駅は満員御礼だ。ごった返す様に人が集まっている。この駅で見るのは初めてだが何所も同じ風景だな。


 親父とこっそり端の方から乗ろうと・・・・おいおい何故あんたは真ん中の一番混んでいる方に歩いていく。


 人ごみの中を歩いていく親父に渋々付いて行く。


 ちょうど一番込み合っているところで立ち止まった、親父の前で図書館のジジイが坊主頭の肩を叩いている。ジジイが親父を見るとこっちに向かってきた。


 「いつもお世話になってます。今日この子も行くのでご挨拶に」と言って俺を前に出す。


 「ああ、ども」ナニナニナニ?突然の展開についていけない。


 「ハハハハ。緊張しなくてもよか.これからは水汲み係が居なくなると寂しくなるな~」言葉と裏腹に嬉しそうだ。何がうれしいのやら?


 ちょうど電車が見えてきてざわめきが起こる。


 「大変な事も有るじゃろうが達者でな」と肩を叩かれた。


 「ジンさん。この後一杯やりましょう」とジジイに言われて親父は手を上げて答えた。


 「だれあれ?」


 「お前知らないで毎日会ってたのか?村長だぞ、<オハリ>の士族で元士族長のナツカリ ハルカ氏だぞ」


 「そうなんだ。ただの図書館のジジイって認識しかなかった。」


 「図書館のジジイってお前な」


 「だって、他の所では図書館には据付の爺さんが居たじゃん。もしかして・・・その人たちもそれなりの人物だったりしたの?」


 あごに手を当てて少し考えてから「ふむ。たしかにハルカは少し変わり者だな」と答えた。でも、村長さん呼び捨てで良いの?


 電車がホームに止まると一番に乗り込む。親父が言っていた「一番乗り」の験を担ぐ。(あれ?)他の子は乗り込んでこない。窓際に座ると親父が窓を叩いたので開ける。


 「お前が帰れる頃には俺はこの村に居ないだろうから、探してくれ。ハルカに一応手紙を出すようにはするから」


 ジリリリリリリリリリリリ


 出発のベルなのだろう、みんな我先にと列車に乗り込んでくる。でも、思ったよりも乗り込んでこなかった。ほとんどは見送りの様だ。


 出発すると親父に手を振って窓を閉めた。親父はポケットに手を突っ込んで俺を見ていた、何となく気恥ずかしくて俺は親父を見ないようにした。

 

 出発してから少しするとカズマがやってきた。(おおおおおお)女の子を二人連れて。


 「モモちゃんおはよう。こっちの子がカズミで」


 「私はワカナだよ。」ショートカットの元気そうな子が自己紹介をしてきた。二人とも可愛いのですが・・・どっちがカズマの彼女だろうか?


 「俺はモモスケ」


 「あれ?今日はカタカナのモモスケ。桃の助平じゃないって言わないの?」


 「おいおいこのタイミングで言うのかお前は・・・」女の子達が笑ってくれたから良いようなものの引かれたら俺生きていけないよ。

 

 「私はカズミね。平和の和に美しいでカズミね。」クスクス笑っている。


 何故?助平が可笑しいのか意味不明だ。


 「おいおいいつまで笑ってるの?」カズマ・・・良い奴だなお前。


 「だってね~。年末の豆とか餅とか運んでる時さ。モモちゃんだけすごい早いんだよ。それで物置いた後、チラッとしてそそくさ行っちゃうんだよ。気を使って母ちゃん達がアケちゃんに「お茶あげな」って言ってるのに、置くと一瞬で行っちゃうからアケちゃんオロオロしてて、ダメだ思い出すとおかしくなっちゃう。」


 「そうなの。アケちゃんの方をチラッと見てるような気がするんだけどね。みんなで台詞つけてね。お前さん待って~~って」大爆笑だ。



 いかがでしょうかお嬢様方。ひとしきり笑われて落ち着いてきたでしょうか?しばし待つ。怒っても良いところなのかも知れないが、女子に怒るなんて俺には出来ない。こうして会話するのはいつ以来だろうか?会話と言うより笑われているだけだが・・・・


 「ゴメンゴメン。ついつい思い出しちゃってね。引っ越して来たのが最近だったから学校に来なかったじゃない。だから、どんな子なんだろうって噂してたんだよ。」


 「ハルカ様の<水汲んでくれる良い人>じゃどんな人か分からないもんね」


 「カズくんが言ってたけど、モモスケくんは<ハヤカワ>に居た事も有るんでしょ。私も親戚が居るからたまに行くんだよ。」


 「<ハヤカワ>って結構距離有るよね。俺もあそこで師匠に会ったんだよね。」


 「師匠って助平の師匠?」カズマ貴様


 なぜ??助平でそんなに受ける??置いてけぼり感がハンパない。


 「あーーー。静かに」貨車の前に付いている。駆動車から二人の男が貨車の扉を開けて出てきていた。


 静かにと言っていた男はゴツイサル顔だ。その隣に一歩踏み出た男は短髪のさわやかさんだ。サル顔に比べれば細いが鍛えられてるスポーツマンと言った感じだろうか。



 「私はナツカリの現領主ナツカリ タカキの息子でイツキです。分かっていると思いますが、これから異界に行くにあたり男女は別々の地区に住む事になります。ここに居る15名はナツカリの名に恥じぬような振る舞いを期待する。」そう言って見回して首を縦に振った。今度はサル顔が前に出た。


 「もうすぐ女子の降りる<メリル>に着く。女子はいつでも降りれる準備をしておくように。」そう言い残すと駆動車に戻っていった。


 「モモちゃんちょっと持ってて。」と言ってワカナに荷物を持たされる。と言うか?どんだけ荷物あるんだ?貨車の乗り口に入ってすぐ、大きな荷物置き場が有ってその先に客席が有るんだが荷物置き場が満載だ。だから、誰もすぐには乗ってこなかったのか。


 それでも女子の荷物は多すぎる。お嬢様方、その量ですと手が4~5本なくては持てませんぞ。


 そんな事をしている内に列車は駅に着いてしまった。


 「モモちゃんこれとこれとこれを下ろして。あの辺に置いといて。カズはこれとこれをお願い。急いで急いで。」何故かカズマは二つで俺は三つ。手の数は俺もカズマも変わらないよ。


 二人の分を運んでいると知らない子にまで頼まれて、何度も貨車の荷物置き場とホームを往復していた。でも、見ると男子のほとんどが手伝ってる。


 運び終わる頃にはサル顔が列車に乗れって支持を出している。


 「ありがとモモちゃん。今度は異界でね」


 「うん。またね~」と言って列車に乗り込む。


 外を見るとすでに案内の女の人に女子達は集められていた。でも、あの荷物どうやって運ぶんだろう?


 女子が降りると荷物置き場がガランとしている。かばんが10個も無い。


 「荷物のほとんどが女子のだったんだね」


 「乗るときは家族が運んでくれたから良かったけどね」喋りながら客席に入り席に座る。


 「女にこき使われて恥ずかしくないのかね。さすが桃の助平だ」わざわざ聞こえるように、前の方で二人組みが喋ってる。


 「モモちゃん気にしなくて良いよ。あいつら嫌われてるからねたんでるんだよ。」カズマが小声で耳打ちしてくる。


 「文句があるなら堂々と面と向かって行ってくれば良いのに、恥ずかしがり屋なんだな。」と聞こえるように言っておく。(お、立ち上がった)


 「モモちゃん」心配そうだけど、そんなに強そうでもないよ?


 結構大きい。座ってる俺を見下ろしてくる。俺も見る。じっと見る。


 「何、見てんだよ」大きい坊主頭が一生懸命見てる。ゴブリンと違って可愛い顔してる。


 「いや?だってワザワザ来てくれたから、なにか喋るかなと思って待ってるんだよ」


 「お前、誰に向かって言ってんだ」


 「え?君にだよ」もしかして会話が出来ないタイプなの?親近感を覚えるぞ。


 「おい、何をもめてる?」坊主頭が声の方に振り返ると、さわやかさんがこっちに歩いてきてる。


 「ナツカリの名に恥じぬように振舞えと言ったよな。ツルキ。」さわやかさんが凄むとちょっと怖い。


 「ちっ分かったよ」席に戻っていった。


 「すまない。弟が無礼を働いた。」頭を下げられた。


 「すみません騒がしてしまって」負けじと頭を下げる。


 顔を上げると、さわやかさんがじっと見てくるんだけど、なにか付いてます?


 「君がジントさんの息子さんか」


 「ジントは俺の父ですが?お知り合いですか?」意外に顔広いのか親父?


 「いやいやいや。一度話した事が有るだけで、こっちが一方的に知っているだけだよ。じゃあ失礼するよ。ああ、そろそろ着くから皆、準備しといてくれ」


 颯爽と戻っていった。やはり、さわやかな人なのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る