第196話 混乱の極み
私が気づくと、そこは石造りの大きな部屋だった。
そこには沢山の人が私達に視線を送っていた。ガヤガヤと何か話している。
そう、
私の周りには、私と同じ状況と思われる三人の少年がいた。
彼らも私と同じように学生らしく、制服を着て不安げに周囲を見回していた。私も例外ではなく、なぜこんな場所にいるのか考え込んでいた。確か、学校から帰る途中だったはず。
帰宅の途中で、突然足元が光ったかと思うと意識が途切れたのだ。
気づいたら石の床の上に倒れていた。
私が身を起こしながら呆然としていると、一人の初老の男性が近づいてくる。
なんだか見たこともない豪華そうな服だ。頭には王冠らしきものが見える。
何かを語りかけているようだが、外国語なのかよく聞き取れないでいた。
私は他の三人の学生に視線を送る。
彼らも困ったような顔をしていた。どうやら上手く聞き取れないのは私だけではないらしい。私だけが不自然なのではないと一抹の安心を覚えた。
すると、初老の男性は一瞬苛立った様子を見せ、側にいる人に何やら話しかけた。
その人物はうやうやしく返事らしき声を上げると、私達のほうへとやってくる。
近づいてきた人物はローブのような物をまとっていて、なんだか魔法使いみたいだった。
私が暢気にそんなことを考えていると、彼は私達四人の手をそれぞれ取り、指輪の様なものをはめてきた。
私の指にはめられた指輪の様なものは、当初ブカブカで意味をなさないと思っていたら、ニョキッと縮まって指にぴったりとフィットした。
まるで魔法の指輪のような様相に驚いていると、周りの声がしっかり聞き取れていることに気づく。
ローブをまとった男性が優しげな顔で私達に語りかけてきた。
「いかがですかな? 私の言葉は理解できているでしょうか?」
私達は驚きながら、何度もうなずいた。どういうからくりだろうか?
ローブの男性は続けて私達に状況を説明する。
「今、お渡ししたのは翻訳の指輪と言われる魔導具になります。稀人をはじめ、召喚された勇者様たちはこちらの世界とは違う理で生活していたかと思われますが、この魔導具があれば、お互いの意思の疎通も容易になるわけですな」
私はローブの男性の説明をぽかんとしながら聞いていた。
理解が追いつかない。稀人? 勇者? 違う理? 魔導具? 気になる単語を何個も聞きながら必死に正気を保つ。
「質問をして良いだろうか? 俺たちはなんでこの場所にいるんだ?」
私達の中の一人、利発そうな男子学生がおずおずと手を上げながら発言する。
「はいはい、勇者様。構いませんとも。あなた方は打倒魔王のために召喚されました。ひいては世界のため、我々をお救いいただきたく」
ローブの男性が腰も低く、うやうやしく答える。
勇者? 魔王? 召喚? 私は混乱の極みにいた。
なんで私が……戦う? 魔王と? そんなことより元の生活は? もうすぐ期末試験だったのに……
「オレたちは元の世界に返してもらえるのか?」
男子学生の一人、少しガタイのいい少年が質問した。
「はい、勇者様。古の勇者様も魔王を倒した後に、元の世界へとお帰りになられたと聞き及んでおります」
ローブの男性がガタイのいい少年の方を向き答えます。
「その……すまないんだけど、勇者とはなに? こういうことは疎くてね」
男子学生の一人、スラッとした少年が頭をかきながら申し訳無さそうに質問します。
「聖なる武具を扱い、魔王を倒す者のことですよ、勇者様。まずはそれぞれの武具にお目にかかると良いかと」
そういうことで、私達は部屋を移動することになった。
最初に声をかけてきた豪華そうな服を着た初老の男性を筆頭に、ぞろぞろと移動する。
別の部屋へと移動するとそこには、きらびやかな武具が据え置かれていた。
私達が近づくと、武具がそれぞれ振動し始めた。
「おお!」
豪華そうな服を着た初老の男性が喜びの声を上げる。
私は光り輝く弓を見た。なんだか惹きつけられる輝きだ。私の武器は多分コレだ。
私はなんとなくそう思った。
「む? 俺は剣か? 呼ばれている気がする」
「オレは盾だな。武器ではないのか……」
「ボクは槍だね。なんだかしっくりと来る」
私達はそれぞれ、勇者の武具と言われるきらびやかな武具に手をそれぞれ伸ばした。
私も光り輝く弓を手に取る。まるで持ち手が吸い付くように感じられる。
ああ、どうやら本格的に魔王を討伐しなければならないらしい。
私は武具に選ばれた高揚感と、これからの不安で心がグチャグチャになった。
「して? これからの動きはどうなる?」
豪華そうな服を着た初老の男性が、側にいたローブの男性に問いかける。
「はっ、陛下。伝承によれば勇者様方は当初、別々に別れて修練し、準備を整えてから精霊王に会いに行くこと、とあります」
修練? 精霊王? 何を言っているの? この人たちは?
私は聞き慣れない単語を聞いて目眩を起こしそうになっていた。
「ふむ。まとまって修練することはかなわんのか?」
陛下と呼ばれていた人が、顎のヒゲをさすりながらローブの男性に聞きます。
「はっ、陛下。勇者様のお力が反発するようで、それぞれ分かれて修練を積まなければならない、と伝承にあります」
「ふむ、難儀な。では、そのようにせよ」
「はっ」
陛下と呼ばれる人がそう命令を下すと、ローブの男性がうやうやしく返事をしました。
私――小鳥遊 夏海はそこまで聞くと、極度の緊張なのか気を失ってしまうのでした。
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