第180話 買い物とクッキー






「こっちだ、コウヘイ」


「おう」


 俺とミーシャはスティンガーの市に来ていた。

 俺の頭の上にはルンが乗っている。


 ガヤガヤと騒がしい雑多な通りをミーシャからはぐれないように付いて行く。

 少し歩くと目的の店のようだ。


「ここだ。コウヘイ」


「ここか……」


 たどり着いたそこは調理器具の店だった。

 今日はミーシャに案内してもらって、道具を買いに来たのだ。

 前に購入したミーシャの髪飾りの石が陽の光を浴びてキラリと碧く光る。

 ミーシャの碧い目と合っていてとてもキレイだ。


 俺は振り返ったミーシャに少し見とれた後、案内された店の中へと視線を移した。

 売り物が置いてある入口付近の台の上には鍋などが雑多に積まれている。

 食器なども少量置いてあるようだ。


 食器なんかは木製なら俺の大地の力で作成できるからな。

 俺は調理器具を物色するべく、店内へと足をむけるのだった。


 店内には何に使うのか分からないような器具も置いてあった。

 俺はトゲトゲのハンマーのような肉たたきを手に取り、具合を確かめる。

 うん。調子よさそうだぞ。

 これは買い候補だな。


 他にも金属製の泡だて器や、大きめの鍋にフライパンなどを見繕っていった。

 俺が次々と買い物候補を決めている間、ミーシャはルンを抱えてムニムニしていた。


「うむ。クセになるな」


 ミーシャは顔をほころばせ、ルンを揉み続けた。


 程なくして、俺の買い物が終わった。

 手に入れた大量の調理器具は霧夢の腕輪に吸い込まれていった。

 店のおっちゃんが驚いていたな。ふふふ。


「ミーシャ、俺の用事は済んだぞ」


「む、そうか。では行くか」


 店を出て、また雑多な通りをミーシャと歩く。

 ふと、露天商が取り扱っている豆のようなものに目が止まった。


 これは……?


「ミーシャ! ちょっと待ってくれ」


 俺はミーシャに声をかけると、その露天商に向かった。

 袋の中のひと粒を手に取り、匂いをかぐ。

 ムスクのような、ほんのりと甘いエキゾチックな香りだ。

 これは……ナツメグじゃないか? 買いだな。


「おっちゃん。これいくらだ?」


「んあ? 一袋、大銅貨五枚だ」


 両手に抱えるほどで大銅貨五枚か……買うか!


「んじゃ、一袋くれ!」


「まいど」


 俺はナツメグもどきを購入した。

 ふふ、結構スパイスが充実してきたな。


「コウヘイはまた訳の分からないものを……まぁ美味しい料理になるしな」


 様子を見ていたミーシャがルンを抱えながら鼻でため息をついた。

 ふふ、ミーシャさんや。そのうちキミにも分かるときが来るさ。


 その後はミーシャと二人で市を回った。

 耐火レンガなんてのも売っているな。

 これは買っておこう。


 たくさん買い物をして俺はホクホク顔になるのだった。




 別の日。

 俺は森の拠点で窯を作っていた。

 ピザ窯やアースオーブンとかいうやつだな。


 場所は厨房の外にした。

 屋根も伸ばして雨除けもバッチリだ。


 地面に手をつき、大地の力を駆使して石の土台を作る。

 次は上モノだな。


 スティンガーの市で購入した耐火レンガで、入り口のアーチを作る。

 石製の扉も大地の力で作成っと。

 ハンドル付きだ。


 アーチ状のレンガの後ろに耐火レンガを変形させていって、ドーム状の物を作成。

 これが窯となる。

 さらに排煙用のパイプを石から伸ばして作った。


 うんうん。形になったんじゃないか?


「ぷぽ?」


 ポテポテとポポが歩いてきた。

 不思議そうに窯を見ている。


「うん? これは窯だ。料理を焼き上げるのに使うんだ」


「ぷぽっぽ!」


 ポポがぴょんこぴょんこしてアピールしてくる。

 なんだ? 焼き上げるところを見たいのか?

 そうしたら用意しておいたクッキーを試し焼きしてみるか!


 薪を用意して火をつける。

 パチパチと爆ぜながら窯の中に火が灯る。


 しばらく窯を温めておいて様子を伺う。

 こんなもんかな?


 トレーに乗せたクッキーの生地を窯の中に投入!

 扉を閉めてしばらく焼き上げればオッケーだな。


「ぷぽぷぽ♪」


 クッキーの焼き上がる香ばしい匂いが辺りに立ち込めると、ポポがよく分からない踊りをし始めた。

 ポポはご機嫌だな。

 たしかにいい匂いだ。


 俺はしゃがんで両手の上に顔を乗せながら、しばらくポポの怪しい踊りを眺めてクッキーが焼き上がるのを待つ。


 待つことしばし、十分ほどか?

 窯の扉を開けて中の様子を見ると、焼き上がったクッキーが目に入った。

 お? 良さそうだぞ?


 霧夢の腕輪からミトンを取り出し、トレーを窯から出した。


「ぷぽぽ?」


 興味深そうにポポが覗き込んでくる。

 隣の作業台の上にトレーを置き、粗熱を冷ます。


「まだ、熱いからな。もう少しだ」


「ぷぽ!」


 少し冷めるまでまち、焼き上がったクッキーを一つつまんでポポに渡す。


「ぷぽぷぽ♪」


 毛むくじゃらの短い腕を伸ばし、小さな手でクッキーを受け取るポポ。

 嬉しそうだ。

 どれ、俺も一つ。


 できたてほやほやのクッキーを口に放り込む。

 サクホロだ。

 うん、美味いな。


「ぷぽー!」


 ポポが飛び上がって喜びをあらわにする。

 ポポの口にも合ったようだな。


「ぷぽぷぽ」


 ポポが両手を上げてぴょんこぴょんこしている。

 もっとくれってか?

 俺はクッキーを二、三枚手に取ると、ポポの小さな手に持たせてやったのだった。






――――――――――――


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