第178話 エウリフィア






 雷鳴が轟く。暗雲がうねりをあげて迫ってくる。

 時は耕平がこの世界に転移してくる数ヶ月前。

 場所は耕平達が拠点にしている森のはるか上空。


『ひゃーーーーっ! 気ン持ちいいーーーーーっ!』


 一頭の天龍が、雷が降り注ぐ雲の中で身をよじらせ舞うように翔んでいる。

 上下に別れた暗雲をつなぐように何本もの雷の柱が立っている。

 その隙間を縫うように身を滑り込ませる一頭の天龍。

 一方、地上は嵐に見舞われていた。


『最高―――――っ!』


 バリバリと天龍の体から雷がほとばしる。


『やっほーーーーーっ! あ、やべ』


 踊るように身をくねらせていた天龍の口から極太のブレスが放たれる。

 どうやら気を良くした天龍が、気の緩みで放ってしまったようだった。


 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオン!

 腹に響くような轟音と、地震のような衝撃が森を襲う。

 天龍から放たれた極太のブレスは、一本の巨木にぶち当たった。


 メリメリと軋み音をあげる巨木。まるで木の悲鳴のようだ。

 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

 巨木は轟音を立てて幹の中程から倒れた。

 嵐の中、身を隠していた小動物たちが、大木からわらわらと出てくる。


 森の一角にポッカリと空いたような空間が出来上がった。


『お姉ちゃん、知~らないっと……』


 この惨状を引き起こした天龍は素知らぬフリで暗雲の向こうへと消えていくのだった。

 倒れ伏した巨木から蛍火のような光の粒が立ち上る。

 嵐も心なしか弱まってきたようだった。


 まるで呼吸を続けるように光の粒たちは巨木を出たり入ったりしている。

 これはこの世界では精気といわれるもので、長い時間をかけるといずれ妖精に至る。

 やがて黄色く輝く光の粒の全ては、巨木全体に溶けるように染み渡るのだった。


 この数ヶ月後に、この世界に飛ばされた耕平がたどり着くことになる。

 巨木は耕平達の拠点へと姿を変え、宿った雷の精と巨木の精が混ざってノーナが誕生することになったのだ。




 時と場所は変わって竜王国。

 天龍のエウリフィアは噂になっているスタンピードの様子を見にやって来た。

 場合によっては手助けしてやってもいい、と考えていた。


 が、いざ来てみるとそこまで切羽詰まっていない上に、竜人の冒険者達が精強だったので見送ることにした。

 自分が矢面に立たなくてもいずれ収束するだろう、と思ったのだ。


 エウリフィアはしばらく冒険者達の動向を確認していると、同族の気配を感じ取る。

 どうやらこの国に向かっているようだ。

 この弱々しい感じ方は恐らく幼生体。すわ、虜囚の辱めに遭っているのかと殺気立つ。

 ひとまず確認してからだなと思い、最高級の宿に泊った。



 何日か様子を見ていると同族はとある宿に泊っているようだった。

 その間にスタンピードは収束し、ダンジョンが開放されたらしい。


 エウリフィアは同族が利用しているであろう宿まで赴くと、中に入った。

 宿のロビーにいるらしいので、そちらに足を向ける。

 そこには三人の少女と幼生体の同族、それにまだ幼いグリフォンの希少種がいたのだった。


「はいぃ、アウラちゃん葡萄ぶどうですよぉ」

「ですです~」

「ヴェルもちゃんと食べて大きくなるんだぜっ」


 見ると三人の少女に甲斐甲斐しく世話をされている幼生体の同族、と幼いグリフォン。


「キュアッ」

「クルルゥ?」


 どうやら無体な扱いはされていないようでホッとするエウリフィア。

 金とも銀とも言えない不思議な色の長い髪をサラリと流すと、三人の少女達に声をかけた。


「あの~こちらの龍の主人はあなた達かしら~?」


「こんにちはぁ」

「ですです!」

「姉ちゃんは誰なんだぜ?」


「お姉ちゃんは~エウリフィアと言うの。フィアでも構わないわ~」


「マロンですぅ」

「リィナ、ですっ」

「エミリーなんだぜ」


「キュアッ」

「クルルゥ♪」


「こちらはぁ天龍のアウラとぉグリフォンのヴェルですぅ」

「ですです~」

「だぜっ」


 あむあむと葡萄ぶどうの房にかじりついているヴェルとアウラ。

 それを微笑ましく見守る一同。


「それで~、この子達の主人はあなた達かしら~?」


「いぃえぇ、マロン達は子守ですぅ」

「ですです」

「あんちゃん達はダンジョンアタックでしばらく戻らないんだぜっ」


「そうなのね~、そうしたらまた顔を出すわ~」


 ひとまず幼生体の無事は確認できたし、無下に扱われている訳ではないようだ。

 この後エウリフィアは同族達の様子を見て回って、さらわれた子がいないか聞いて回ったのだった。




 拠点の地下にあるダンジョン温泉。

 今、エウリフィア以外は誰もおらず、貸し切り状態だ。


 パシャッ

 湯船に浸かりながらエウリフィアは温泉の縁に両腕を乗せてうつ伏せの体を伸ばす。


「う~ん、結局のところ同族達の中からさらわれた子はいなかったのよねぇ……」


 エウリフィアは縁に乗せた腕の上で頭を左右に揺らしながら唸る。


「アウラはいったいどこの子なのかしら?」


 考えても答えが出ないので、やがて思考の向こう側にペイっと投げるエウリフィア。


「ここの地上の広場もな~んか見覚えがあった気がするけど~。な~んだったけ~?」


 ゴロゴロと湯船に寝そべりながら考えるが、これも結局思考のモヤの中に消えていくのだった。






――――――――――――


 拙作を手に取って頂き誠にありがとうございます。





 これにて六章は終わりです。ここまで読んでくださり誠にありがとうございます。







 次話から七章がはじまります。







 引き続き楽しんでいただけると幸いです。





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