第177話 一方そのころ……






「どういうことだ!? ガイシャリに続いてミルヒダーズまで戻らないではないか!」


―ダンッ! 黒い肌で金髪のイケメン、サオルが拳をつき憤る。


「ヒヒヒっ、失敗……ざますかねぇ」


 黒いローブのようなものをまとい、陰鬱そうに答えるザマース。

 フードを被っており、相変わらず顔が確認できない。


「力のある次代の聖女を落とすこともできんとはっ!」


「ミルヒダーズに直接任せたもののぉ、失敗するとはぁ、ざます」


「魔大陸も何故か邪神様の御力が通らないではないか!」


「何者かの邪魔が入ってぇいるざますかねぇ……」


 薄暗い部屋は石造りで、揺れる蝋燭ろうそくの火が二人分の影を映している。

 石のテーブルのようなものが有り、席は四人分有った。

 サオルとザマースが座っている他に空席が二つ――ガイシャリとミルヒダーズの席だろうか?


 向き合うように座った二人はしばらく沈黙する……。


「……俺たちが魔大陸に進出できないのはアレか? 勇者とかいうやつでも現れたのか?」


 サオルがテーブルの上のゴブレットに手をかけながら言う。


「い~え~? アレはぁ古の魔王と対の存在のはずぅ……魔王が存在しなければぁ、勇者はぁ現れないはずざます」


 ザマースの言葉を聞くと―フン、と鼻を鳴らしゴブレットを口元に傾けるサオル。

 中身はワインだろうか? 黒紫っぽい液体がサオルの口内へと入っていく。


「勇者の武器を回収してから管理していたのはミルヒダーズだったな? もうどこぞの誰かに渡っちまってるんじゃないのか?」


「ヒヒヒっ、例え人の手に渡ろうともぉ心配はぁ無用ぅ……アレは持ち手をぉ選びますからねぇ」


 ぐいっとゴブレットをあおるとタンッとテーブルに置くサオル。


「……アレ・・はあといくつ残っている?」


「御神体ですかぁ? ヒヒヒっ、あと二つ、ざます。一つは割って破片にしてぇミルヒダーズにぃ持たせましたからねぇ……」


「クソッ! こんなんで悲願を達成出来るのかよ!? こう失敗続きじゃジリ貧じゃねーか!」


「狂神化薬はぁ、あといくつかぁ残っているぅざますねぇ」


 サオルは憤りながらテーブルの上のボトルへと手を伸ばす。

 ドボドボと自分のゴブレットに中の液体を注ぐ。

 ワインのようにも見えるが、色味が黒い。


「結局、その狂神化薬も魔王の誕生には至らなかったろうが!」


 テーブルの上のゴブレットをひっつかむと、中の液体を勢いよくあおるサオル。

 体に悪そうな色の液体を飲み干す。


「ヒヒヒっ、やはりぃいにしえの魔王の復活がぁ必要ざます……」


「どうなんだ!? そっちの進捗は?」


 サオルが胡乱うろんげな瞳をザマースに投げる。


「順調ざますよぉ……ヒヒヒっ」


 黒いローブのフードの中でザマースが揺れる。

タンッ―とゴブレットをテーブルに置き、グイッと口元を拳で拭うサオル。


「いつ頃になりそうだ?」


 サオルは濁った目をザマースに投げた。


「ヒヒヒっ、もう間もなくぅ……と言ったところざます……」


 サオルはふむふむとうなずくと少し機嫌が戻ったのか、ボトルを手に取りゴブレットに傾ける。


「ならば重畳……これで混沌の世が生まれるな……やはり邪神様は復活出来ないのか? ザマースよ」


 サオルはそう言うとゴブレットを口元へと運ぶ。


「邪神様を復活させるにはぁ御神体がぁ欠けすぎているぅざますねぇ……古の魔王を復活させるのがぁ関の山ぁ……まぁ、目的はぁ達成できそうざます」


「クククッ、混沌の世になれば力こそが正義! いい時代になるなぁ……」


 ニヤニヤと中空を見ながらゴブレットを左右へ振るサオル。

 原始時代に戻るのが彼らの望みなのだろうか?


「ヒヒヒっ、混沌の世が来ればぁ、研究がぁ捗るざますねぇ……」


 薄暗い石造りの部屋で二つの影が揺れる。


「わざわざ竜王国くんだりまで行った甲斐があったな……」


 椅子に深く腰をかけ、フンと鼻を鳴らすサオル。


「ヒヒヒっ、アレのデータでぇ研究がぁ進みましたからねぇ……」


 アレとは狂神化薬を使用したガーベラのことだろうか? いったいザマース達は何の研究をしているのか……。

 ザマースはローブのフードのなかで嗤いを漏らす。


 「ガイシャリとミルヒダーズもこれで浮かばれるだろうぜ」


 「ええ、古の魔王の糧にぃなったのですからぁ、本望ざますねぇ」


 フードの中でザマースの目が怪しく光る。

―タンッ、とゴブレットをテーブルに置くと、サオルが立ち上がる。


「では、ザマースよ。俺はもう行くぞ? くれぐれも古の魔王の件、頼むぞ?」


「ヒヒヒっ、輝かしきサオルよ。間違いなくぅ復活させるのでぇご心配なくぅ……」


「その名で呼ぶな! ザマース。俺はただのサオルだ!」


「ヒヒヒっ、そうですかぁ……では、またぁ」


―フン、と鼻を鳴らすとサオルは宙に腕をかざした。

 ズアッと黒い渦が現れる。人が入れそうなほどに広がった渦に向かうサオル。

 サオルが後も見ずに渦の中へと入ると跡形もなく消え去る黒い渦。後にはザマースだけが残された。


「……ヒヒヒっ。さてぇ、どうなることやら……ざますねぇ」


 ザマースは独り言を呟くと、後には静寂が訪れるのだった。






――――――――――――


 拙作を手に取って頂き誠にありがとうございます。



 もし面白いと思った方は評価やフォロー、応援をして下さると作者のモチベーションが上がります。



 面白いと思った方は評価を☆三つ、詰まらないと思った方は☆を一つでかまわないので付けてくださると参考になります。



 よろしくお願い致します。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る