第158話 ドラクロニアス家






「婿殿、こっちだ」


「おう」


 雑多な人通りの道をガーベラと歩く。

 俺は抱っこ紐にヴェルとアウラを抱え、頭の上にルンを乗せている。

 ここは竜王国の王都だ。


 ティファが竜の巣のダンジョンコアと交渉して、転移ネットワークを繋げたらしい。

 お陰であっという間に倉庫の地下から竜王国だ。


 俺たちはいくつかの門を越えて竜王国の王城へとやって来た。

 なんかちょっと緊張するな。


 俺は横目に小鳥遊たかなしそっくりの横顔を見る。

 見れば見るほどよく似ている。

 性格は全然違うが。


 体型なんかも瓜二つである。

 この細腕であの大剣をぶん回すんだもんなぁ。

 俺も一回大剣を持たせてもらったが、とてもじゃないが振れなかった。

 持っただけでプルプル震えてしまった。


 王城の門を顔パスで通り過ぎる。

 さすがはこの国の王女様というべきか?

 いや、俺からみてもお姫様って柄じゃないけどな、ガーベラは。


「これはこれはおひぃ様。お戻りで」


「うむ。じいも変わらずだな」


 ガーベラが老執事の相手をする。

 この人も竜人だ。立派な角がある。


「おひぃ様、そちらのお方は?」


「む? 我の婿殿だ」


「これは初耳ですな。お父上には?」


「うむ。これから報告に上がろうと思ってな」


「そうですか、ではそのように」


 竜人の老執事はそう言うと会釈をし、俺たちを応接間へと案内する。

 出された茶菓子を小分けにしてルン、ヴェル、アウラにあたえる。

 ルンは体の中でシュワシュワと、ヴェルとアウラはあむあむと噛んでいる。


「ルン達を連れてきちゃって平気なのか?」


「うむ? 細かいことを気にする人じゃないから平気だろう」


 俺はルンを撫で撫でして精神の均衡をはか

 そうしていると入り口の扉がノックされ、老執事が入ってくる。


「陛下がお越しになります」


 老執事はそう言うとサッと扉の脇に避ける。

 ズンズンという音が聞こえそうな様相で一人の竜人が入って来た。


「ガーちゃん久しぶりだな」


「うむ。父上もご健勝そうでなにより」


 燃えるような赤髪でオレンジの目をした偉丈夫。

 ガーベラの父親だ。

 俺は立ち上がり、胸に手を当てて挨拶あいさつをする。


「お初にお目にかかります。コウヘイ・スギウラと申します」


「うむうむ、楽にせよ。我はグラジオラス=ドラクロニアス。この国の王なんぞをやっている」


 王様が席に着くのをみて俺もソファに腰掛ける。


「して、父上。今日は報告があって来たのだ。今、我は森の奥に住んでいる」


「なに? そんな田舎にガーちゃんは住んでいるのか!?」


 王様が目を細めてガーベラを見る。


「うむ、こちらの婿殿。コウヘイの家に住ませてもらっているのだ」


「婿とな? う~む、こんな凡庸な男がガーちゃんのなぁ……」


 王様はアゴをさすりながら唸った。


「婿殿は平凡そうに見えてなかなかやるのだ。竜の試練も済ませているし、我の求婚の儀も受けてもらった」


 求婚の儀というのはアレだ。お互いの肩に噛みつくというものだ。

 ガーベラを邪神の眷属化からはらう時に噛みつかれたやつだな。


「竜の試練を突破したか! それでは認めねばなるまいて」


 うむうむと王様がうなずく。


「ところで、コウヘイとやら。いや、婿殿か? その腹に抱えているものと頭の上のはなんだ? スライムか?」


 王様がいぶかしげに俺に尋ねてくる。


「はい。スライムのルンにグリフォンのヴェル、天龍のアウラです」


 ルンは俺の頭の上でミョンミョンとし、ヴェルとアウラは俺の手をあむあむと噛んでいた。


「テイマーでもあったか!」


 王様が膝をポンと叩く。


「テイマーに当てはまるかは分かりませんが、縁がありまして……」


 俺は空いているもう片方の手でルンを撫でる。


「それに天龍様の子とは珍しいな。どうしたんだ?」


 王様が片眉を上げながら俺に尋ねる。


「はい、ドワーフの国で斯々かくかく然々しかじか……」


「なんと! 彼の国ではそんな事になっていたとはな。ウチにも前に問い合わせがあったが、そういう事か。ウチはウチでスタンピード騒ぎで忙しかったからなぁ」


 王様はアゴをさすりながら遠くの方を見た。


「そのスタンピードの騒ぎも大元を解決してくれたのが婿殿たちだ」


 ガーベラがフンスと息巻く。


「大元とな?」


「うむ、父上。邪神の眷属なるやからどもに我は遅れを取ってしまったのだ。それを婿殿に救ってもらったのだ」


「なんだと!? ガーちゃん、我は初耳だぞ!? そういう事は早く言いなさい。モーリス!」


「はっ。陛下」


 スッと老執事が側に現れる。


「我が国の短剣を持て。報奨金もじゃ」


 なんだか大事になってきたぞ?

 俺はルンを撫でながら様子を見る。


 程なくして、ワゴンを押して老執事のモーリスさんが部屋に入ってくる。


「陛下、こちらに」


「うむ。では、婿殿。こちらを」


 そう言って、短剣とお金の入った巾着袋を渡された。


「時期が時期ゆえ大々的には出来ぬが、せめてもの、じゃな」


 俺はそれらをうやうやしく受け取った。


「何かあればその短剣を見せるがいい。我が国が力になろうぞ」


 短剣を見ると竜王国の紋章だろうか、精緻な竜の彫り物が施してある。

 俺は立派な短剣を懐にしまうのだった。






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