第157話 新酒
「ふんふんふ~ん♪」
クーデリアが鼻歌を歌っている。
随分と機嫌が良さそうだ。
「どうした? クー。ご機嫌じゃないか」
頭の上にルンを乗せた俺がクーデリアに尋ねる。
「あ、コウヘイさん! 良いお酒が出来たのです!」
クーデリアがパアッと花開くような笑顔で言う。
「へえ、お酒か。俺たちあまり飲まないからなぁ……」
銀月亭などで出されれば飲むが、自分からは飲もうと思えないんだよな。
ドワーフみたく酒に強いわけじゃないし。
なので、ウチの食卓ではお茶が並ぶ事が多い。
「今回のはコウヘイさんにも楽しんでいただけるでしょう!」
自信有りげにクーデリアは平たい胸を張った。
とりあえず自信作ということらしい。
それじゃあ、ということで倉庫の隣の酒蔵へ。
クーデリアが試飲用のグラスを取り出し、樽からグラスへと注ぎ込まれる。
ふわっと酒の匂いが広がる。
まるでフルーツを思わせるような香りだ。
酒とは思えない上品な甘い匂いだ。
ルンも不思議そうに体を伸ばしてグラスを覗き込む。
グラスを
ニコニコとしたクーデリアがグラス越しに見える。
……まるで水のようだ。
一口、口に含む。
やさしい甘みとほどよい酸味、爽やかな発泡感と意外な飲み口に、俺は目を白黒とさせた。
アルコール度数も低いようだ。
「これは……うまいな」
「そうでしょう、そうでしょう。ボクの自信作です。とは言えドワーフには物足りないでしょうが」
たしかに、酒飲みのドワーフには度数が低すぎるのかも知れない。
しかし、あまり酒を飲まない俺たちのために作ってくれたんだと考えると、ジーンと来るものがある。
ルンが俺の腕を伝い、グラスに体を伸ばしていた。
「これは、何から作ったんだ?」
「えっと、泥麦からです……」
クーデリアが恥ずかしそうに言う。
この世界じゃ未だに家畜の餌って認識だからな、泥麦は。
「いや、良いと思うぞ? 俺は」
形は違うが日本酒のような物だろうか?
俺はうんうんと頷きながらクーデリアの方を伺う。
ルンはグラスを器用に傾け、中のお酒を摂取していた。
「えへへ、ありがとうございます」
クーデリアが照れたようにはにかむ。
それはお日様に照らされたヒマワリのような笑顔だった。
「そう言えばクーの実家ってどんなところなんだ?」
「ボクの実家ですか? ウルフガンツは侯爵になりますね。とは言え、他の国の貴族とは様子が違うようですが」
なんでもクーデリアの家は代々国に鍛冶師を排出している家で、侯爵と言っても普通の貴族とは違うんだとか。
なんだかんだ言っても侯爵だろ? 結構いいとこのお嬢さんなんじゃないか?
「へえ、すごいじゃないか」
「いえ、まぁ鍛冶馬鹿なだけですよ。ボクの家系は」
クーデリアが苦笑しながら答える。
「クーデリアも鍛冶をやるのか?」
「う~ん、ボクにはそっちの方の才能は無かったみたいなんですよね。でも簡単な物なら出来ますよ?」
「鍛冶場が必要なら言ってくれよな。作るから」
「はい! その時はお願いします!」
クーデリアが鍛冶まで出来るとは驚きだ。
でもドワーフだから当然なのか?
いや、決めつけはよくないな。
「ウチなんかに来て、実家は何も言ってこないのか?」
「ドワーフの国を救ったと言っても過言でないコウヘイさんの所ですから!」
えっへん! とクーデリアが言う。
「みんながいたからだよ」
俺は照れくさくなり、頭をポリポリかいた。
「コウヘイさんのお力があってのことだとボクは思います!」
「そうか。ありがとう」
「いえ、こちらこそ」
お互いに礼を言い合っていたら、頭がコツンと当たった。
えへへ、とはにかむクーデリア。
ちくしょう、可愛いな。
俺はクーデリアの可愛さに思わず顔を背けた。
「何か生活で足りないものはあるか?」
「いえ、コウヘイさん。ここには全て揃っています。ボクも酒蔵でお酒を作れるようになりましたし、何と言っても温泉がありますからね!」
クーデリアがうっとりした顔で言う。
ここに来た当初と違って、クーデリアの髪はしっとりサラサラだ。
俺は見違えるようにキレイになった髪に
思わず手にとってみたくなるようだ。
「クーデリアは実家とは連絡を取っているのか?」
「はい、時々ですが手紙のやり取りがありますよ」
そりゃ良かった。
この拠点に来ることで没交渉になってしまったら、なんだか申し訳なくなっちまう。
ガタッ
物音がしたので目を向けると、ルンが何やら震えている。
「どうした? ルン」
俺はルンを抱きかかえて撫でてやった。
ミョンミョンミョン!
どうやらクーデリアの作ったお酒がお気に召したらしい。
「ははっ。ルンもクーデリアのお酒が美味しいってさ」
「わぁ、ありがとうございます!」
ルンも炭酸飲料を結構好むよな。
このクーデリアが作ったお酒はエウリフィアなんかも好きなんじゃないだろうか?
心なしか火照っているルンを抱え、俺たちは酒蔵を出た。
「このお酒、みんなにお披露目するのはいつだ?」
「はい、今晩にでもみんなにお出ししようかと思います。」
「きっと、みんなも喜ぶさ」
「はい!」
俺はクーデリアの花開くような笑顔を見つめるのだった。
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