第156話 温泉ダンジョン






「マスター! 温泉郷を作りましょう!」


 秋雨の今日このごろ、ティファが急にそんな事を言いだした。

 ここは拠点の俺の部屋。

 外ではシトシトと雨が降っている。

 夏の気配が去り、すっかりと秋の様相だ。


「なんだい? ティファ。藪から棒に」


「ティファの中では前々から決まっていたことなのです」


 ティファが胸を張りながら答える。

 そうなのか。

 それじゃ、なんで今日なんだ?

 俺は疑問に思い、首をかしげる。


「こう、雨ではせっかくの温泉も魅力が半減してしまいます!」


 ティファが憤懣やる方ない、という雰囲気だ。

 そうかな? 雨の中入る温泉っていうのも中々乙なもんだぞ?

 まぁ、土砂降りは無理だけどさ。

 とにかく、ティファにはこの雨が許せないらしい。


「それで? 屋根付きの温泉でも作ろうっていうのか? ティファは」


 俺が首をかしげながらもティファに尋ねる。


「いえ、マスター。そうではなく、ダンジョン・・・・・です」


 なんだって!? ダンジョン製の温泉か!

 そういやゼフィちゃんの温泉も、元はダンジョンの宝箱からだからな。

 ダンジョン自体で温泉を作ろうと思えば、できる。のかな?

 火山地帯のダンジョンとかあったしな。


「場所はどうするんだ? 広場には畑を広げちゃっているからあまり場所はないぞ?」


 俺がそう言うとティファの口元が僅かに上る。

 ティファもだいぶ表情に出るようになったな。

 俺はティファの顔を見てしみじみと思う。


「マスター、地下です。転移石のある場所から広げれば、ダンジョンの一部として認識されます」


 って~事は倉庫の地下は既にダンジョンの一部なのか!

 転移石を置いてあるからな。

 ダンジョンの飛び地、という認識なのだろうか?



 という事で俺はティファ監修の元、倉庫の地下室を改修、増築することになった。

 地上から地下へ降りると転移石のある部屋につき、さらに地下へと降りる階段を作る。

 ある程度の広さの空間を転移石の下の階に作った。


「それでティファ、ここからどうすればいいんだ?」


「はい、マスター。ダンジョンポイントを使って拡張します」


 ティファがそう言うと、ポンと俺の目の前にダンジョンウィンドウが立ち上がる。

 ふむふむ。

 ダンジョン拡張の項目は、っと。

 おっ、あったあったこれだ。


 何々? フィールドを選ばなきゃいけないのか。

 森、林、山、火山、洞窟、砂漠、……などなど。


「ティファ、フィールドはどうする?」


「ここは森の中なので森のフィールドが一番ダンジョンポイントがかからないはずです。森でいきましょう」


「広さは? あんまり広くてもな」


「そうですね。ボス部屋くらいにしときましょうか」


 ティファの言う通りに森のフィールドでボス部屋を選択。

 すると、薄暗かった地下室が明るくなり、地面からニョキニョキと木が生えてくる。

 程々の距離にあった壁がズワッと広がっていく。


「うおっ。すごいな、これは」


 俺は次々と変化していく周囲の様相に驚く。

 まるで植物の成長記録の早回しでも見ているみたいだ。

 ズンズンと俺たちの周りに森が広がっていく。

 前に神樹の森の怒髪大熊猫と戦ったようなフィールドが出来上がった。


「ティファ、風呂の方はどうする? 地上の温泉から引くのか?」


「いえ、マスター。ゼフィちゃんのところの様に温泉珠を使いましょう。ランダムな泉質が得られます」


 神樹の森の温泉は青く透き通っていたっけな。

 ウチの温泉は白いにごり湯だ。


 どんな温泉が出るかな~。

 俺はダンジョンウィンドウをポチポチと操作しながら温泉珠を探す。


 ~~~~~

 温泉珠

 温泉が湧き出る

 ~~~~~


 ダンジョンポイントを使って温泉珠を作り出した。

 俺の大地の力を使って岩製の湯船を作っていく。

 ケガをしないように滑らかに削って、っと。


 大風呂はこんなもんでいいか。

 他に寝そべって入れる湯船もいくつか作成。

 これはダンジョンの機能を使いジェットバスにした。


 ピリピリとくる電気風呂を用意する。

 滝のような打たせ湯も用意した。

 ここの打たせ湯だけちょっと和風な様相だ。


 他には、っと。

 俺は次に岩製のサウナを作った。

 公爵邸やミーシャの実家で入ったが、あれはあれで良いものだ。

 水風呂も用意する。


 更に洗い場、シャワーを忘れずにね。

 水洗トイレも完備だ。

 木を使って脱衣所も作った。


 興が乗って色々と作ってしまったな。


「ティファ、どうだ? こんなもんで」


「はい、マスター。とても……良いです」


 ウットリとした表情でティファが答える。


 ってか、これゼフィちゃんも同じこと出来るはずなんだよな。

 とは言え、俺もティファのナビがなければここまで出来なかっただろう。

 ゼフィちゃんもホラーな怖い思いをして手に入れた温泉珠だ。

 水は差すまい。


「マスター! まずは安全性を確かめねば。ワタシが身をもって確かめてきます!」


 ティファがフンスと鼻息荒く言う。


「おう、じゃあ頼むな。みんなにも言ってくる」


「はい、マスター。では」


 ティファはそう言うと、そそくさと脱衣所に向かっていった。

 俺はそれを苦笑しながら眺めて、地上への階段を登るのだった。






――――――――――――


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